【小説】

■□ やの付く自営業 れの付く自営業 3 □■




俺は病院を抜け出した後になって重大な事に気づいたのだった。

「・・・・俺、そのばあさんが何処に居るか解らねえじゃん・・・」

こんな初歩的なミスをしているから何時までたっても三下ヤクザなんだよ・・・

俺は自責の念に駆られ電柱に手を付き・・・項垂れる・・・。

『・・・・アレだ・・・』

何処かでそう言葉が響く。

見ると・・・・外の黒い大きな物が俺に向かって!?

食われる!!

「ぎゃあああああああ!」

俺は驚き・・・・叫び声を上げ・・・逃げる。

其れは巨大な・・・頭部だったのだ。

ダッシュで人垣の間を走り抜ける・・・・。

この地域では最も有名で大きい病院だけあって・・・人も多く居る・・・・。

そいつ等は何事も無い様に・・・・日常の風景が広がっていた。

俺を頭のイカレタ人間を見るかのように見る。

アレが見えないのかよぉ!?

涙目で其処を掻き分ける・・・。

『・・・アレだ・・・』

言葉が繰り返される・・・

『アレが・・・アレが・・・』

「ひいいいいいいいい!?」

そう言いながら路地裏を駆ける・・・・其の時。

腕を強い力で引っ張られる。

暗転する視界。

重力が回って・・・。

痛み。

「ぃてて・・・・」

頭と腰・・・背中に痛みが走る・・・。

俺は頭を抱えながら・・・それを味わっていた・・・今の現状も解らず・・・。

「いやぁ・・・・大変だったなぁ・・」

そう言いながら闇の中で暢気な声が響く。

その言葉に俺は助けてもらったのだと気づく。

「あ・・・すんません・・・」

そう言いながらタンコブのできた頭を撫でて・・・苦笑いをして返す。

其処である事を気づいてしまう。

アレが見えてたのは・・・俺しか居なかった・・・筈・・・。

カチリ・・・とう音がして・・・ジッポーライトの炎が辺りを照らす。

赤い光に照らし出された男は、煙草を口に銜え口の端を上げ笑っていた。

髪を後ろに一本に結び・・・・無精髭を生やした・・・やさぐれた男。

悪戯めいた笑みを浮かべ、美味そうに煙を吐く・・・・

「で?その顔は・・・何故アレが見えるのか・・・そう聞きたそうな顔だなぁ・・・」

そう言いながらライターが閉じられる。

再び視界が闇に飲まれる・・・煙草の火だけを残して。

「それは・・・」

そう言葉が闇から聞こえたときだった・・・・。

『見つけた・・・・・』

アレの声が木霊する。

凍りつく俺・・・・・。

恐る恐る振り返る・・・・。

闇で見えないはずなのに・・・何故か解る・・・・その・・・顔。

ニタリと口が裂け・・・・赤い目が微笑みを作る。

もう駄目だ・・・・。

死を覚悟して俺は目を瞑る・・・・。

「はぃ・・・話してる途中だから・・・一寸黙って・・・な・・・」

日常会話の様に話される・・・その声音・・・。

破壊音。

機械的な音では無く・・・・生き物と解るものが破壊される音。

『ギャアアアアァアア!』

断末魔の声・・・其れに恐れ・・・・縮こまる・・・。

恐る恐る・・・闇なのに両手を覆っていた俺は・・・手の間から・・・其れを覗く。

「さて・・・・話の続きだが・・・・」

そう話される・・・然し俺は其れを見て・・・・。

俺は意識を手放していた。




「ぅ・・・」

俺は目に差し込む光で目を覚ます。

病院の天井にしては薄汚れた・・・其れ・・・。

その状況に飲み込めず・・・・・唯天井を見つめ思案に暮れていた・・・。

男は窓に寄りかかり・・・煙草を燻らせていた・・・・。

顔は逆行でよく見えなかった・・・。

「やあ・・・・・お目覚めかな?」と言う声で先程迄の状況を思い出す。

あ・・・・俺、アノ黒い化け物に追われてて・・・・。

そして・・・・その光景を思い出す・・・吐き気を覚え・・・口を押さえる・・・。

「あー・・・・便所はあっちだから・・・」

そう言いながら指を指される・・・・。

飛び起き、其処を目指し・・・・扉を開け・・・吐き出す。

全ての物を吐き出し・・・漸く落ち着く・・・。

涙目、鼻水を垂らしながら・・・俺は、便所のティッシュで拭う・・・。

俺は男に振り返る・・・・。

奴の顔には苦笑いが浮いていた。

「で・・・・話の続きは良いかな?」

そう言いながら。

俺は滲んだ視界で見ることしか出来なかった。

ティッシュとさっき吐いた物の臭いが鼻を支配していた。




「要は・・・・世間一般的に霊能力者って言われている職業の人間なんだよね・・・・」

その言葉から始まった・・・普通の人間は知らない世界の話。

「君の其れ・・・・手紙か・・・其れは幾多の霊能力者が渇望して止まない・・・大妖怪の使役の契約書なんだよね」

「え・・・・だって是・・・爺さんが・・・ばあさんと仲違いしたからって・・・・謝りの手紙だろ?」

ニヤリと笑う男。

「あの爺さんそんなことを言ったのか・・・まぁ・・・其れを持っていると・・・是から先・・・全国の霊能者の式神が

お前さんを殺しに来るぞ?」

「え!?俺は其れを取り出す・・・」そんな危険な物だったのか!

瞬間・・・・延びる手・・・。

俺は唯スローモーションで見ることしか出来なくて・・・・。

バチン!特大の静電気の様な音が部屋に響く・・・。

男の舌打ちの音。

「いててて・・・・あの爺さん・・・最後まで食えない・・・」

見ると手から大量の血があふれ出て・・・床を汚していた。

「おい!大丈夫か?」

「・・・嗚呼」

俺は身を乗り出し・・・手を触る・・・。

咄嗟に・・・自分の袖を千切り・・・布で止血する。

ふぅ・・・良かった・・・・余り傷は深くないようだ・・・。

「爺さんは最初に触った者以外は触れられない呪を施したようだな・・・・」

痛みに顔を歪ませながら、苦笑いをする。

俺は奴の手を見ながら・・・心に痞えていた物を吐き出すように言った。

「俺・・・爺さんの約束を守りたい・・・・ばあさんに謝りの手紙を渡してやりたいんだ・・・」

溜息を吐かれる・・・・。

「そのばあさんが・・・件の大妖怪かもしれない・・・其れでも?」

瞬間脅えが体を走る・・・・。

・・・・けれど・・・爺さんの悲しげな表情が・・・・浮かんで・・・。

生唾を飲み込み・・・覚悟を決める。

偽善者でも良いから・・・やっぱり寝覚めが悪いだろ・・・?

「嗚呼・・・」

俺はそう絞るように声を出したのだった。







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