【小説】

■□ やの付く自営業 れの付く自営業 1 □■




東京某所の雑居ビル。此処は裏の人間が集まる処。

ソープ、ラブホテル、スナック、パブ、ホストクラブが軒を連ねる。

淀んだ空気の中、雑踏の中を人々が流れていく、安っぽい蛍光のネオンが闇を彩る。

此処が俺の生まれ育った町だった。

「猛!おい!次の店に行くぞ!」

兄貴が俺を呼ぶ、白いスーツに身を包みオールバックにした彼は俺の憧れだ。

目元はサングラスで隠されている。

肩で風を切る姿に女共が振り返るのが解る。

「はい!兄貴!」

俺は兄貴の前を守るように歩く。

彼の下に付いて居るのがとても誇りだった。

軽い足取りで夜の町を行く、待たせていた白いベンツのドアを恭しく開ける俺。

「兄貴!さぁどうぞ!」

と言い、兄貴の方を振り向く、

「往生せいやああああああああああ!」

兄貴の背後から男が飛び出てくる。

何も考えずに俺は男の前に立ちはだかる。

次の瞬間・・・・。

チープな爆竹の様な音が一回・・・・。

真っ赤に染まる視界・・・・。

足が振るえ、其のまま崩れ落ちる。

遠のく音。

近くでは兄貴が俺を揺さぶって居るのか身体が揺れる・・・。けれど音は遠くて・・・・。




ん・・・此処は何処だろう・・・・。

仄かな光を感じる・・・。俺はキョロキョロと辺りを見回す。

俺は気付くとこの世とは思えないほど美しいところに居た。

極彩色の花畑に、同じ色の蝶達・・・・・。

嗚呼、俺死んだのか・・・・。

俺は兄貴を守りぬいた・・・満足して行ける・・・・。

きっと、ご先祖様がお迎えに来てくれてるはず・・・。

そう思いながら目を凝らす・・・。

お約束的にお花畑の向こうには川があった。

対岸には誰かが手を振っている・・・・。

ヨボヨボの爺さんが船頭をしている船に乗り込む。

爺さんは慣れた物で竿を使い船をだす。

「なぁに、向こうは天国じゃて」

と笑顔で答える。

「そうかなぁ?俺、人様に自慢できるような人生送ってこなかったんだけどよ・・・」

俺ははにかみながら、会話を交わす。

中ごろまで差し掛かっただろうか・・・・。

「おおおおおおおい!猛!猛!!!」

ん・・・・?

あの声は!10年前行方不明になった親父か!?

俺は、久し振りに再会する親父に嬉しくなって船から立ち上がり大きく手を振る・・・・。

然し・・・・・・・

然し・・・・・・・そこに居たのは・・・・・・。

青いアイシャドウ、ピンクの頬、真っ赤な口紅をべったりと付け、顎には髭の青い後、

赤茶のソバージュをなびいている。

腰まで届きそうなスリットに胸元をお情け程度に隠す、身体のラインを強調させる同じく真っ赤なドレスを着た・・・

化け物が居た・・・・。

「ひいいいいいいいい!?」

俺は生きて来て、是までにない驚きを覚える。

咄嗟に、躊躇い、後ろに下がる・・・・。

「おい!若いの危ないぞ!」

爺さんの叫び声。

次の瞬間・・・・船から投げ出された俺が居て・・・。

間っ逆さまの景色がゆっくりと目の前を過ぎていく・・・

ドポンっと濡れた水に打ち付ける頭、そして其のままの体制で入っていく・・・。

く!鼻に水が!?

水面の光りが揺らぎながら足元を照らしていた・・・。

俺は其の光りと爺さんの船の影もどんどん・・・離れて行って・・・・。

其れと同時に意識も遠のいていく・・・・。




溺れる!

「ぶふぁあああ!」

と息を吸う。

目を覚ますと、底は白い天井。鼻に消毒液の匂いが付く。

身体には色々なものがつなげられ・・・・。

其れは自分の物のようでなくなった気分だった。

定期的に動く機械・・・・。

俺は、他人の様な其の指を動かす・・・・。

あ・・・・、俺・・・・生きてたのか・・・。

どうやら、冥土にはあの化け物の所為で行けなかったらしい・・・・。

そう思いながら俺は何故か疲れた目を又閉じる。




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