【小説】

■□ 死神の手 2 □■




相棒の後ろを付いていくと、着いたところは、良くある都心のマンションだった。

コンクリートの打ちっ放しの其れは、無機質で温かみの無い物で。

奴はエントランスホールを抜け、最上階の部屋の隅に行く。

目の前の高級感の有る黒いドアを上げ見ながら、場違いな自身に躊躇する。

「お前が今日から住む処だ」

そう言って、ドアの脇にある機械にさっき貰ったと思われるカードを走らせる。

電子音がしたかと思うと、施錠が開く音。

奴は慣れた足取りで中に入る。

オドオドと足を入れ、都会に来た田舎物宜しく、挙動不審に辺りを見回す。

風呂トイレ共同の四畳一間の木造アパートに其れまで住んでいた俺。

その差は歴然だ。

「此処がお前の部屋だ」

そう言い空けられる部屋のドア。

12畳は有るだろうか・・・前の部屋の数倍も広い其処。

其処には俺の私物を入れた引越しのダンボールが三箱、隅にポツンと置いてあった。

奴は用は済んだとばかりに自室へと戻ろうとする。

やはり、是から先長い付き合いをするのだから・・・・そう思い勇気を振り絞る。

「あ、その・・・有難な」

何気ないその言葉。

然し・・・・相手は違ったみたいで・・・。

流れるような動作が其の瞬間止まる。

振り向きその言葉に驚き、意外そうな顔で言う。

「上の指示だ・・・・礼は言わなくて良い」

そう悠然と言われてしまう。

それはそうだが・・・釈然としない物が心に残る。

奴は静かに扉を開け、出て行ってしまった。

一人残される俺。

「・・・何なんだよ・・・」

俺は其れだけをポソリと言って見る。

気分を切り替えるように、荷解きをし始める。

五着ばかりの服を大きなクローゼットに入れていく。

端っこに申し訳なさそうに吊り下げれる着古した服達。

二足しかない靴、数冊の本。

もう一つの箱を開ける。

使い古されたアルミの片手鍋、お玉、皿達が覗く。

これ等は100円ショップで揃えた物だったが使い勝手が良く、気に入った物ばかりだった。

「・・・是は台所か・・・」

そう呟きながらダンボールを持ち上げ部屋を出る。

先ほどの部屋の倍はあるだろうリビング。

ダンボールを抱えながら、リビングに続くキッチンを目指す。

ショールームの様に美しいが、生活感の無いキッチン。

俺は棚を開け中を見てみる。

案の定何も入っていない・・・・。

冷蔵庫も念のため調べてみる・・・。

入っていたのは、ミネラルウォーターと缶詰・・・・。

「何食って生きてたんだ?アイツ・・・」

俺は溜息一つつき呟いた。




キッチンに手馴れた包丁のリズミカルな音が鳴る。

軽快な其の音に俺は鼻歌を歌いながら、片方ではコンロでお湯が沸く。

慣れた手つきで塩を大目にいれ、パスタを茹でる。

其の間に切った肉、野菜を炒め、塩コショウで味を調える。

手際よく作っていく其れ。

長い間男一人で暮らしていると其れなりの料理は身に付いていた。

出来た料理を皿に盛り、広いテーブルに置く。

俺は奴を呼ぶためキッチンを離れる。

其れしい扉を見つけると、ノックをしてみる。

「おい・・・・飯だ・・・・打ち合わせがてら食うぞ・・・」

そう言う。

静かな間・・・・俺は諦めてキッチンで自分の分を食べようと戻ろうとした。

ふと・・・・小さな音をたてて・・・扉が開く。

振り返ってみると、其処にはノエルが立っていた。

彼は戸惑っているようで目が泳いでいた。

俺は苦笑いを浮かべる。

「ほら飯が冷めちまう・・・・行くぞ」

そう言って。

俺はリビングへと脚を向ける。

少しの間を空け、奴が着いて来る。

形は一人前でも所詮十七歳の餓鬼だな・・・・下手をすると俺の子でも通る歳なのだ。

若しかしたら・・・・・そう思う。

一度妻が妊娠した子を重ねているのかもしれない・・・・生きていればこのくらいだったのだから。

分かれた妻との間には子供は居ない。

然し一度だけだが、妊娠をした、結婚してから直ぐの事だった。

其の子は妊娠初期で流産をしてしまったが・・・・。

あの時の子が生きていたなら・・・・このくらいになっていたのだろうか。

大の男二人テーブルに顔を着き合わせそう考えながら飯を食う。

「・・・・仕事の内容なんだが・・・」

俺は租借しながら話しかけてみる。

「嗚呼、お前はターゲットに高齢化対策該当者だといえば良いだけだ・・・」

奴は冷静な目で見返す。

『高齢化対策該当者』機械的な単語ではあるが・・・其れは死ぬ事を意味する・・・・。

釈然としない其れに俺は言葉を詰まらせる。

「その告知の二十四時間以降に俺はそのターゲットを殺す・・・」

「・・・直ぐには殺さないのか?」

ふと思った疑問。

「嗚呼。残される者たちへの挨拶もあるだろう・・・っていうのが理由らしい」

「でも、其の間に国外逃亡なんてるすんじゃ?」

その問いにニヤリと口の端を曲げ笑う。

「その為に告知後本部に連絡するんだ・・・・人工知能パソコンは全ての交通機関に通知、手配する」

・・・・成る程・・・・それでは逃亡は無理だろう・・・。

「俺は相手に高齢化対策該当者である事と、24時間以降に死ぬ事、

そしてそれに伴って残される者達へ最後の挨拶をする事を話し、

その後、本部に連絡すればいいんだな?」

今までの話を要約するとそうなる。

相棒は片眉を引き上げ笑う。

「そう、それでお前の仕事は終り・・・・そして」

奴はニヤリと笑う。

それをみて俺は頭の隅で、綺麗な顔が笑うと花が咲いたようだ・・・そう思う。

その話す内容が趣の無い殺す内容でもだ。

然し、出てきた次の単語によってその考えは打ち消されてしまった。

「今回の仕事のターゲットは大隈信二だ」

それを間髪入れずに話される。

「おい・・・・其れって・・・」

同姓同名だろうか?俺は急ぎ資料に目を通す・・・・

奴は飽きれる様に笑うと、声が振ってくる。

「おいおい・・・・まさかじゃなくとも、総理大臣の名前だよ」

其の言葉で止まる俺・・・・。

初仕事なのに・・・・山が大きすぎやしないか?

不安が身を襲う。

「何。お前はさっき言った事を言えばいいだけだ簡単だろ」

少しずれた相棒の感覚に眩暈を覚えたのは言うまでも無い。

政治家:大隈信二

現総理大臣でもあり、この高齢化対策を発案し立法化した当人だった。

「おい・・・・・・・告知の24時間後、俺が又会って本人か確認してやる」

其の反応に奴は驚いたようだ。

「何言ってるのか解ってるのか?」

そう声を低めて唸る。

「嗚呼、小型の通信無線があったろ・・・それで相手が本人だったら指示する

お前はそいつを殺せ・・・・相手は現職の総理大臣だ・・・・何を遣るか解った物じゃない」

ピシャリと言う其れ。

互いの目線が交差する。

すると、奴は溜息をつく。

「解った・・・・其処まで言うのならばお前の好きなようにしろ・・・

然し、其れをやるハミングバードは長生き出来ないのも事実だからな?」

冷たい目を投げられる。

遣らなくてもいい事なのかもしれないが・・・そうすれば恐らく、相棒に負担が掛かるのだろう。

誤った人間を殺せば立派な刑事事件だ。

未だ未成年の奴にそんな思いはさせたくなかった。








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