【小説】

■□ 死神の手 1 □■




20xx年。この日本では少子高齢化が進み、金持ちと貧困の差は激しくなりばかりだった。

確実に軋むその状況は見えない真綿でジワジワと首を絞められている状況。

年齢別の人口分布の数字は着々と逆三角形を示し、人々は崩れ始めた制度をただ見るしかなかった。

そんな中、その高齢化対策に終止符を打つため、政府が発案した政策。

其れが、今俺の勤めている機関が発足した元だった。

高齢化対策課処理班・・・・別名、デスサイズ・・・・死神鎌と呼ばれる部署。

・・・特務機関らしい。

このデスサイズでは、其の名の通り、人を殺す。

要は多くなりすぎた高齢者の数を減らそうという、中国の一人っ子政策の正反対の策である。

向こうでは産まないと言う事で回避できるものだが、此方はそうも行かない。

其処でだ、このマグロ拾いにも似た作業をやるべく発足したのがこの機関だった。

人工知能パソコンがランダムに叩き出したお年寄りを殺していくのだ。

然し、急に殺しては角が立つ。

此処では、死を告知する者をハミングバードと呼び、死を与える者をホーリーナイトと呼ぶ。

ホーリーナイト「K」が付くか付かないかは知らないが・・・・ふざけた名前だ。

そのハミングバードとホーリーナイトはペアを組み、選んだ者に死を与えていく。

っま、無職だった俺を雇ってくれた様な処だ、感謝こそすれ恨むことはないだろう。

今日からこの新しい会社で働く事になっていた。

俺は、是から合うであろう相棒にわくわくしながら、少し不安になりながら、

個室で待機していた。安物の鉄パイプ製の椅子に寄りかかりながら・・・。

パイプ椅子は2つ。片方は空席だった。




「御前が、龍守義一か?」

「ん?・・・・ああ」

其の声に、俺は振り向く。

見ると何時の間にか入ってきたのか、男が一人立っていた。

185cmはあるであろう長身が音も無く。

綺麗な顔立ちの若造・・・・年は20前半くらいか・・・?

長い髪を無造作に結んだ奴は、何処か危険な匂いがした。

すっと大きな手が此方に伸ばされる。

「俺は、リアンだ」

「・・・・あ。ああ宜しく」

俺は戸惑いながら、手を握り返す。

リアン・・・顔はハーフみたいな顔ではあるが・・・日本人だよな・・・・?

生粋の日本人の俺から見れば羨ましいばかりの事だ。

181cmの俺より少し高い目線、ガタイは俺の方が良い。

然し、しなるような筋肉の付き方、隙の無い身のこなし・・・・。一目見て普通じゃないと解る。

そんなことを考えていると、ドアが軽い音をたてて開く。

「すまんすまん。遅れてしまったようだな・・・・」

そういいながら現れたのは、俺よりももっと年が行った男だった。

「俺が、この班の所長、小沢だ。こっちが部下の米田・・・」

背後から付いてきた男は出来る人間を絵に描いた奴だった。

「宜しくお願いします。早速なのですが、此方の書類と、此方の方にサインを・・・。」

幾つか束になった書類と、誓約書。

其処には住所と年齢、名前、印鑑を記入する箇所があった。

俺は何の気なしに書く。

「第一にこの機関の情報は機密です。朗詠防止には細心の注意を払っていただきますので宜しくお願いします」

「嗚呼・・・」

「第二にハミングバードとホーリーナイトは基本的に行動を共にしていただきます」

「・・・・」

俺は何気なしに相棒になるであろう綺麗な兄ちゃんを見る・・・。

大丈夫だろうか・・・・・。何がとは言えないが・・・・何となく。

ちらりと目がいった手元・・・・。其処にはサインと奴の年齢が・・・・17歳?!

「あの!」

俺は咄嗟に説明を続けようとした彼に声を掛ける。

「質問ですか?」

「あ・・・ああ、こいつ・・俺の相棒・・・・未成年のようだが・・・」

「ええ、でもホーリナイトは人手の少ない状態でして・・・・年齢はありますが、彼の能力は折り紙つきです。

安心してください」

と有無を言わせない笑顔で答える。

「は・・・はい・・・」

俺は言う事を聞くしかなかった。

「では・・・続きを・・・」

「第三にハミングバード・・・・龍守さんの役目での注意なのですが。やはり伝える内容が内容なので、

細心の注意をお願いします。本人に伝える・・・それが原則ですイレギュラーな場合が発生した場合は連絡をお願いします」

「はい・・・」

そりゃそうだ・・・・死の告知なんて・・・医者くらいしか無いはずのもの・・・。

「このパスを携帯してください。貴方が告知者であることと、権限・・・・そうですね死ぬ当人に会うことの出来る権利ですが

其れが有る物です。勿論、不所持、損失は厳しく罰せられますので厳重な管理をお願いします」

・・・・腹巻にでも忍ばせておくか・・・。

俺はその赤の皮製の手帳を受け取る。警察手帳の様なそれは、なんだか偽物のようだ。

お守りが付いた紐に付け、腹巻に入れる。

此処には財布も一緒に入っている。

「第四にホーリーナイト・・・・リアンの役目の注意です。武器の所持が認められ、その種類も選べますが、当然関係の無い人間を

殺したり、怪我をさせますと、刑事事件となり法的な罰則は受けますので・・・・例外はありますが・・・間違いの無い様お願いします」

・・・其れは物凄い大変ではないだろうか・・・?

影武者や、似た人間は沢山いる・・・。

俺は又手を上げる。

「龍守さん・・・なんでしょうか?」

「なぁ、影武者やら間違いは無いってことは無いだろ?例外ってなんだ?」

俺は疑問に思ったことを投げてみる。

彼は、口元に笑みを浮かべ、答えた。

「そうですね、正にその影武者等も例外に入ります。其れのないようにハミングバードが居るのですが・・・」

「・・・?」

「貴方方には在る一定の能力の在る方々しかなれません」

俺にそんな稀有な才能があったとは驚きだった。

「記憶力と認識力が長けている人間・・・・それも他人を見分ける能力が在るんです」

コレは驚きだ・・・・・・まぁ、無職の前は、指名手配犯を探す職なんて事もやっていた・・・其れのお陰だろうか・・・。

まぁ、其の職の人間の顔写真がネットに流出してしまい、俺達は無職を余儀なくされてしまったのだが・・・・。

「貴方は其の上嗅覚が人よりも良い。個体差の体臭をかぎ分けることが出来ると聞きましたが・・・」

・・・・余り嬉しくないことだが・・・・そうなのだ・・・。

其れのお陰で知らない事まで知ってしまう・・・・。妻の浮気も・・・。

俺は足元を眺める。

其れは、指名手配犯を探すため一週間犯人の目撃情報の寄せられた駅を張り込んでいたときだった。

漸く犯人を見つけ出し、疲れ果て自宅に帰ったとき・・・・。

妻の安らぐ匂いが・・・・男の其れに交じっていたとき・・・。

眩暈のするような現実・・・。

俺は逃げるように家を飛び出て、その1年後妻と別れた。

其の衝撃は何時までたっても拭えなかった。

あれから女性が抱けず・・・・妻のあの時の匂いを思い出して・・・。

一人、男やもめを決め込んでいた。

「・・・・嗚呼、けれどこの能力が役に立つのか?」

そう、是は匂いだけだ・・・。

初めて会う人間にそう使える物じゃない。

「国民全員にICチップが埋め込まれているのはお知りですよね?」

「嗚呼・・・・」

其れは数年前の事だ。

俺も打たれた・・・・予防注射みたいなものだった。

その簡単な作業で鎖を繋がれたのか・・・。

「それは遺伝子も読み込みます。サンプルとして体臭を作る事も可能です」

・・・・吐いていいか?

そう胸糞の悪くなるような事を言われ、俺はその台詞を飲み込む。

然し、話は無常に過ぎていく。

「・・・と言う訳でして、此方が今回のサンプルと告知書類です」

「早速だな・・・・」

俺は封筒とサンプルのケースを受け取る。

「・・・・」

リアンは其の人間のICチップの発信機・・・・。

其れで十分なんじゃ・・・?

「チップを取り外してしまう人間もいるんですよ・・・」

困ったように話す奴。

・・・そうか・・・外してしまえば逃れられる・・・・

一度入ったICチップは、遺伝子データを人工知能パソコンに送るらしい。

チップを入れ替えたりすると書き換えがある、それは直ぐに解り、そいつは捕まる。

しかし、外しただけの人間は・・・・・。

そこで俺か・・・・嗅覚で見分けろと・・・・。

他がどうやってるか解らないが・・・、俺はなんだか・・・利用された気がした。

「まぁ・・何はともあれ、無事に任務を遂行してくれ、其れだけだ」

と所長の小沢は笑みを浮かべ話す。

「住居は此方で用意してます・・・詳しいことはリアンから聞いてください」

そう言って渡されたカードとキー。

俺はオロオロとする。

「・・・・行くぞ」

相棒は書類に目を通し、席を立つ。

「ちょっと・・・待て・・・おい!」

振り返ることはない其れに、俺は急ぎ続いて席を立つ。

淀みなく進む奴の後を小走りで付いていったのだった。




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