【小説】

■□ 三国一 23 □■




其の夜、月が後宮を照らし出す。美しい庭園に、虫の音。

献帝は夕餉を済ませ、楽で遊んでいた。

美しい笛の音・・・。

音は、虫の音と混ざり、絶妙の音になっていた。

美しく若々しい献帝の笛を吹く姿に他の侍女共は溜息を漏らす。

まぁ、この世のものとは思えない感じである。

風情あるよな・・・。俺はのんびりとその情景を見る。

其れを見て、女丈夫は俺を鼻で笑う。

「男なんて物をこの後宮に連れるとは・・・・帝の護衛は私めで十分だ」

何だよ・・・仲良くとまでは行かないが、お互い献帝の事を考えて行動してるんだ。

助け合いこそすれ、何故そう頑なになる?

俺は眉間に皺を寄せ、其れを言おうと口を開こうとした・・・。

然し、其れは、献帝の言葉で打ち消される。

何時の間にか笛は止み、此方に視線が向いていた。

「まぁ、そう言うでない、彼は朕から頼んだのじゃ・・・・・ん?」

宥めるように言った其の時・・・・。

闇の中動く気配。

「曲者か!?」

獲物を持つ、俺と女丈夫。

獲物と言っても、目立つので蛇矛は部屋に置いたまま・・・。

普通の矛である・・・まあ、問題は無いんだけどね。

ユラリと気配が動く・・・。

ゆっくりと月明かりに照らされたのは、良く知った獲物・・・・方天戟・・・そして・・・。

「奉先!」

俺は嬉しさで、己の格好を忘れ、飛んでいく。

「よお!俺の事解ったのか!?」

久方ぶりに遭った盟友、抱き締められる。

「嗚呼・・・・まさかこの様な処でとは思ったが・・・目を疑ったぞ」

可笑しいのか、笑いながら話す。

其処に何も知らないだろう、女丈夫が割ってはいる。

「お主は薫卓相国の犬ではないか!何ぞ用か!?」

女丈夫は、問い詰める。

俺よりも横にも縦にもでかい彼女は、牙を剥き今にも跳びかかりそうな勢いだ。

奉先は、苦笑いを浮かべ、返す。

「何、この者に遭いに来たまで・・・」

此処で、人殺しは物騒だ。帝も見ていることだし。

勿論、転がるのは女丈夫の死体だが。

俺も急いで、言ってやる。

「そうだ、あの後何も話せないままだったからな・・・」

俺もシミジミと其れを思い浮かべる。

漸く合えた、好敵手。沸き立つその言葉に俺は踊る。

・・・此処はやっぱり・・・。嗚呼、でも奉先は妻子のことが心配だろうし・・・でも・・・。

「久方に遭えたんだ。その・・・」

その言った意味が解ったのか、苦笑いで返される。

何か苦しげだか・・・薫卓相国の処で嫌な事でもあったのだろうか?

「嗚呼、遣り合おうではないか」

其の声に、俺は走るように、蛇矛を取りに行く。

風のようにして戻り、其れが始まる。

月明かりを元にして矛を交える。

「久し振りだな・・・」

口を片方引き上げて言う奉先。

「嗚呼、腕・・・鈍ってないだろうな?」

答える様に言ってやる。

ニヤリと笑みを交わす俺達。

その中、

「フン・・・疎の様な事・・・たかが知れてるわ」

と鼻で笑う女丈夫。

むっとする俺。

見てろよ・・・・。

一呼吸、双方構える。

虫の音が止む。

嗚呼・・・・是だ、糸を通したこの感覚・・・・。

其れは夜の静寂を斬った。

一気に地を蹴る。

瞬間、散る火花。鳴る獲物。

払い、凌がれ、隙を伺う。

受け、跳ね返し、避ける。

其れを続け合う。

小一時間たっただろうか・・・、汗を拭い、睨み合う。

然し、其れには暗さは無い。

お互いの息が上がってくる。

次で終わりだ・・・・そう思う。

一撃必殺、溜めて・・・・・・そして放つ一撃。

俺は溜める、相手も同じなのか鏡のように動く。

迷いは無い・・・・踏み込む足、其れを放つ。

一際大きな金属の音が響く。

身を反り、ギリギリでかわす。

奉先も同じ・・・・、然し・・・俺はニヤリと笑う。

奴の読みは甘かったらしく、顔に赤い線が走る。

漸く取った一打・・・。甘美な其れに心躍る。

「俺・・・俺・・・・奉先から・・・奉先から一打取ったぁ!やったあーーーー!」

小躍りして俺は、奉先に抱きつく。

然し、其れは、

「・・・張飛、服が破けたぞ」

とあきれた風な献帝の声で現実に引き戻される。

ん・・・・?と俺は己の体を見てみる。

成る程、俺の侍女の服は見るも無残に袖から首にかけてパックリと口を開いていた。

ペロンとめくれ片方の肩から腹まで見えていた。

・・・あちゃー、まぁ切れて血が出たわけじゃないし・・・・・良いか。

と思いながら俺は、奉先に向き直る。

「ふふん・・・・奉先、怠けてたな!是からは毎夜俺と共に武芸の稽古だ!」

そう言ってやる。

「・・・・嗚呼」

目を合わせようとしない・・・・、そんな奴だったか?

「おい・・・・どうした・・・?」

俺は奴の顔を叩いてやる。

「さて・・・御前達にも積もる話もあろう・・・少し席を外してやろう。朕は先に戻る・・・、

嗚呼、呂布とやら・・・・今日は良い物を見せてもらったぞ」

と笑みを零しながら寝室へと戻る献帝。

献帝は久し振りの友との再会に気を回してくれる・・・。

本当に、出来た帝なんだよ・・・・相国さえいなけりゃ・・・。

其れに続く、女丈夫・・・あれ・・・そう言えば・・・名前きいてねえや・・・。

そんな事を思いながらぼーと突っ立っている・・・。

暫くすると、虫の音が又始まる。

月夜はとても綺麗で・・・・。

嗚呼、玄徳も同じ月を見ているのか・・・・。

そう・・・・しみじみしていた・・・・。

不意に伸びる腕、・・・ん?

そうか・・・・久し振りに会ったんだ・・・友との抱擁だな・・・。

俺は其れに答えるように腕を広げる。

友情のハグ・・・・。

久し振りだな!ギュ!

そんな感じ。

然し、其れは、不意の鳩尾への鋭い痛みで終わる・・・・。

ちょ・・・・、友に・・・?!

遠のく意識・・・俺何かしたっけ・・・・・。

そりゃ、一本とったけど・・・。

擦れる視界に見る顔は影で見えなくて・・・。

そして、俺の意識が途切れた。









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