【小説】

■□ 三国一 21 □■




良馬と金で、義父を売った裏切り者・・・・、呂布。

其れが俺の背負った物だった。

下った後に言い渡された事が、薫卓の身辺警護だった。

虎の意を借る狐宜しく・・・奴は俺を何処彼処と引き連れまわした。

亡き義父の居ない今・・・怖い物知らずのらしい。

奴の愚行は酷いものだった。

都中の美女、美童を掻き集め、狂乱の日々。

目の前で強制的に繰り広げられる情事。

醜い豚に群がる虫・・・・・。

それが適切な光景なのかもしれない・・・。

自虐的に笑う・・・ふと・・・・其処で現実に戻される。

物陰に潜んだ・・・・気配を感じて・・・・。

自然と歪む・・・目・・・。

死に急ぐな・・・・・・そう願う・・・此の儘、臆病風に吹かれてくれれば・・・

然し・・・其の願いは儚く消える・・・

「逆賊薫卓!天に代わり天誅!!」という叫び声と共に・・・

飛び出てくる若い男が一人。

振り上げられ煌く剣が・・・ゆっくりと動く・・・其れを受け・・・・流す・・・・

弧を描き美女の足元に落ちる・・・・其れ

「キャァーーーーーーーーー」

美女の絹を裂く悲鳴が宴に木霊する・・・・。

飛沫を上げる程の返り血を浴び・・・紅の鬼が一人・・・悲しげに蒼天を眺める。

今切った者の様に、大義名分を掲げる勇気も無く・・・俺は唯それに顔を背ける事しか出来なかった。

己の無力さに怒りが込上げ・・・・握る拳・・・。

其れを下卑た笑いを浮かべ酒の肴にする薫卓・・・・。

「嫌・・・・天晴れ天晴れ・・・予期せぬ催し物であったがな!」

其の言葉に暗い目を向けるしかなかった。

そして狂った宴は続いていく。

そんな有るときだった。

校尉の曹操という者が薫卓を訪れる・・・。

色白に肌理の細かい肌・・・唯それだけが印象的な男。

然し、薫卓は彼に目を掛けているらしく、奴の私室内にまで行ける者の一人だ。

因みに、身辺警護の任を任せられた俺すら、奴の部屋には近づける事は無かったのだから、

相当に、籠愛されているのだろう・・・・。

其の日に限って、薫卓から指示が出されたのだった。

「曹操が帯剣しておる。何か有った時の為だ、御前は直ぐ外で待機していろ」と・・・

俺は指示の通り、戸の前で警護をする。

部屋を背にして、庭園を眺める。

そうなると、中での会話は嫌でも聞こえてしまう・・・・。

衣擦れの音、くぐもった声、湿った音。

其れが何を示すのか解り愕然とする・・・然し尚も其れは続いて・・・

『・・・外に人が・・・』

揺れる声音。

・・・予想外の其れに驚く。

曹操校尉と言えば、黄巾賊の乱より名を馳せた知略の将。

顔は確かに白く、紅を刷いたように赤いが・・・・。

顔は女という訳ではない、まぁ美男の部類かもしれないが。

武で名を馳せた偉丈夫。その人間が女の様にされている事実に。

『・・・・ぁあ・・・・』

漏れる吐息に交じり、甘い声。

どう考えても・・・是は何をしているのか明白だ。

男が男に組み敷かれる衝撃。

そういうものが有る事は知っていたが、遠い世界の物だった。

今まさに、繰り広げられている世界。

まずい・・・・

焦る俺。

罰の悪さに、他の事を考えようとする。

頭の中を一瞬・・・矢の様に突き刺さる・・・・映像。

振るえ・・・愕然とする・・・・。

・・・・・・・・益徳。

何故か・・・・安否の不安な妻子ではなかったことに、鈍器を当てられた様な驚きが身を襲う。

いけないと思っても、それは垂れ流す毒の様に止め処なく溢れてくる・・・。

武術での高揚感、息の合った演舞の一体感・・・・・。

益徳の悪戯を含んだ笑み・・・・戦う時の切れ味の有る鋭い瞳。

其れが、今隣で行われている行為と同じ匂いを感じてしまう。

俺は、愚か者だ。質に取られた妻子に申し訳が無い・・・・。

押し殺そうとした其れ・・・。

然し、喘ぎの声は彼を思い出すと・・・遠く、彼の声と重なる。

現実を逃避させてくれる・・・・彼との戦い。

俺は・・・・・。

芯がカァと熱くなる其れ。

微笑ましい物ではなく、飢餓に似た其れは全身に回る。

日焼けをした小麦色のはだに、色の薄い髪。

気付いてしまうと・・・・其れは甘い誘惑。

曹操校尉とは正反対の色。顔は整っているが、男らしい面だ。

大きめの口、通った鼻梁、大きく鋭い目。

虎に似た風合いの其れ。

彼を組み敷くには、虎退治の心構えで行かねば殺されるだろう・・・。

苦笑い。

そんな事を考えている自分に対して・・・

ふと、隣が終わった事に気付く。

安堵の息を漏らしたとき。

其れは紡がれた。

『・・・・関羽・・・』

疲れたように。

曹操校尉から零れた言葉・・・。

愛する人の名前なのか・・・。

其の言葉は俺の耳の奥に染み込んだ。

けれど、己に走る欲望を押さえ込むので手一杯で・・・・それ処ではなくて・・・

深く考えずに聞き流す・・・・

そうして・・・・欲望の炎は甘く全身をじわりじわりと侵食していく・・・・

知らぬは当人ばかり也。







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