|
■□ 三国一 20 □■ その後直ぐに、現帝を廃し弘農王とし、陳留王を献帝とし立てる令が発せられる。 それと同時に、薫卓は相国となる、其の名の通り国を相(み)る役職だ。 奴の見る国の末路は見えたもの。 己の欲望の儘に・・・・突き進んで行くのだろう・・・ 負けたのだ・・・・手汚い謀によって・・・・ 丁原が死んだ事によって薫卓軍が勢い付く・・・。 そして、丁原刺使の軍は散り散りとなる。 残った兵と盧植中郎将は玄徳の元へと逃げて貰った。 薫卓の軍の追っ手から守るため・・・しんがりを務めた。 手塩に掛けた部下達が遣られて行く・・・・その悔しさ・・・ 「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」 雄叫びを上げ月夜に浮かぶ・・・・ 蛇矛の動きは加速するように早く動く・・・・ 振ってくる矛を薙ぎ払い・・・一閃させる 浴びる鮮血・・・・ その異様な光景に恐れ戦慄く敵兵。 「殺されたい奴は出て来い!俺は翼人張飛なり!」 そう叫びながら・・・・相棒の蛇矛を舞わせる・・・・。 月明かりに煌く・・・冴える瞳・・・・食いしばる口。 一刻ほど立っただろうか・・・・月を浴びて草原に一人立ち尽くす・・・。 濡れた髪と顎に滴る赤・・・・・・・ 粗方の敵を倒し・・・・俺も後を追って、玄徳の元へと逃げようとした、其の時。 「其処の、張飛殿で御座いましょうか?」 と声を掛けるものが有った。 馬に乗り、品の有る文官の様な出で立ちだ・・・ 恐らくこの軍の後を追ってきたのだろう・・・・ ジッと其の声の主を見る・・・見た限り・・・悪者ではなさそうだ。 俺は、素直に言う。 「何者だ?如何にも俺が張飛益徳だ」 彼は急ぎ馬から降りると・・・平伏して言う。 「私は、献帝の使いの者に御座います。是非、帝が遭いたいと・・・」 あの時の餓鬼が・・・。 俺は一寸考える。献帝の居る場所は、虎の穴の中。 瞬間に浮かぶのは、確りと俺を見た意思の強い目、悲しげな表情。 最後かもしれないのだし・・・挨拶ぐらい・・・いってやるか・・・。 そう考えが過ぎる・・・ 「・・・解った、・・・で?如何すればいいんだ?」 「此方へどうぞ・・・」 俺は先導されるまま其の男に続いた。 人目の無い・・・裏手門を通る・・・。 辿り着いたのは、大きな部屋の一室。 「少々お待ち下さい・・・」 深く頭を下げ、待つように言われる。 仕方なく俺は所在無さげに部屋の豪華な調度品を眺める。 「久し振りだの、張飛よ」 独特の凛とした声。俺は急いで平伏する。 「何、良い、朕とて頼みが有って参ってもらったのじゃ」 俺は其の言葉に・・・・不思議におもう。 「・・・頼みとは?」 あの悲しげな表情が浮かぶ・・・・・俺は居ても立っても居られなくなる。 「薫卓が相国になったのは御前も知っておろう・・・?」 顔を背け・・・・拳を握り締める・・・ 「ええ・・・・」 言い辛そうに・・・彼は俺を見る・・・一縷の望みを込めた声音で・・・ 「若し・・・若し良ければ、朕の直属の部下となり、一緒に居てもらいたいのじゃ。知っての通り、此処は蛇の穴の中・・・・」 悲しげに足元を見る帝。 「兄も隔離され、義母すら・・・腹を割って話せる相手も居ない」 「・・・俺は、劉備玄徳の直属の配下だから・・・玄徳に何か有ったら其方に向かわねば成らないのです」 恐らく、玄徳を取るだろう・・・・・。だから、俺は適任ではない、謹んで辞退したかった。 「・・・解っておる、時が来たら・・・主の元に帰るがよい・・・其の時は止めん」 彼は悲しげに笑うと、そんな事を言う。 ・・・そんな事を言われては、捨てていけないではないか・・・ 「・・・解りました、顔を見たい人物も居ます・・・・謹んでお受けします」 其の言葉に少年らしい笑顔が綻ぶ。 奉先にも合っておきたかったし。 俺が帝の近くに居れば、何かと手助けが出来るかも・・・そんな考えを巡らせる。 然し、ふと思う。 「・・・俺は薫卓に顔がばれてると思ったが・・・大丈夫ですかね?」 可也、薫卓相手に、目立つ事をしている自覚は有るので・・・。 がん垂れてみたり、啖呵きってみたり、喧嘩売ろうとしてみたり・・・。 指名手配で言ったら、真っ先にされているだろう。 「朕に良い考えがある・・・」 笑顔で其の言葉を言う。 「帝・・・・これは・・・・直ぐにばれると思うのですが・・・」 強引に侍女の者達に着替えを手伝われ、悲鳴を上げる。 是は無理がある。というか、性質の悪い冗談だろう。 「どうだ・・・・?ふむ・・・・・」 其れを見た帝は、顎に手を当て思案を重ねる。 「背の高さは屈めば、なんとか成ろう」 只それだけの答え・・・・。嫌、辞めようって方向で・・・。 鏡の前には、黒く長い髪を被り、白粉を塗りたくられ、紅を刷いた、人間が居た。 かく言う、自分。 ガタイの良さを埋めるため、服を重ねられ、息も絶え絶えだ。 「大丈夫だ、侍女に見えるぞ」 「・・・・本当にやるんですか・・・・?」 「無論だ」 帝は自身有りげに笑顔を浮かべていた。 俺は、既に了承した事を後悔していた。 戻 TOP 次 |