【小説】

■□ 三国一 17 □■




都に重い足で戻ると、事が一変していた。

薫卓の軍は、処かしこに居て都を食んでいた。

「大事無かったか?!」

遠くで声。盧植先生だった。

「すまねえ・・・先生・・・」

「嗚呼、話は後だ。血が出ているではないか!医者を!」

其れは馬車から皇子を守ったときに出来た物。

「何てことはない、其れよりすまねえ・・・帝を薫卓に奪われちまったよ・・・」

うう・・・。

「数万の兵相手だ、致し方あるまい。謝るべきは此処まで禍根を大事にした我々の方だ」

うう・・・。申し訳なくて、顔が見れない・・・。

「明日、問題の薫卓が宴を催すのだ。是非御前も来て欲しい」

確りと両手を握られる俺・・・。

今俺に出来る事は、盧植先生だ・・・・・。

目を瞑り、覚悟を決める。

折角、陳留王が身を挺して助けてくれたんだ。

昇華は出来ないが是を戒めとして頑張ろう。

頬を打ち鳴らし、気分転換。

「・・・おう!先生。俺は全力で守るよ!」

「兵ならば問題は無い。手勢は50人ほどだが・・・懇意にして居る者がいるんでな」

ニコリと笑う、白髭の老人。

次の日、

月が浮かぶ夜、

宴には全ての文武の官が揃っていた。

是に出なければ、後で何をされるのかは目に見えていたから。

皆、命は惜しい。

この世の贅を尽くした皿が並び、美味い酒が並ぶ。

酒に月が浮かんでいた。

俺は牙を研いだ獅子の様にじっと、先生の脇に付く。

ふと、目線を感じ、其処に向ける。

同じように厳格そうな老人の背後に立つ猛者が一人。

隙が無い・・・・。

重なり合う目線。

然し、其れは一瞬。

再び意識を先生に戻す。

酒を飲み楽しむ、宴も半ばを差し掛かったときだった。

主賓の薫卓が悠然と言い放つ。

「此度の宴に列席された諸侯の方々には礼を言う。その上で予は新帝廃し、

陳留王を擁立する事を提言したい。」

ざわつく宴。被せるように薫卓が言う。

「見たところ、新帝は意思薄弱で器ではない、比べ陳留王は聡明で、

仁徳がありその器と取れる。漢室の未来を考えればの事」

シンとする一同。

「意義の在るものは立ち給え!」

脅しも同然の慟哭で言う薫卓。

怯え、顔を見合わせる諸侯達。

そんなときだった。すくッと立ったものが一人。

さっきの厳格そうな老人だった。

「わしは反対だ」

ザワザワと声がする・・・名を丁原と言うらしい・・・。

「新帝を擁立せしは霊帝の御意思。今更、諸侯たる我々の口出しする処ではない!」

至極ごもっともな話。

「新帝で泰平の世になろうならと考えるが、其れは至極難しい。世が求めるは陳留王を帝とするところ。正論ではないか!」

「先帝の御嫡子なれば何の問題があろうか?この様な私宴で話す事では無いわ!腹積もりが見えておるぞ!」

第二の十常侍。其れ。

薫卓の顔が朱に染まり、憤怒の形相となる。

「言わせておけば!予に逆らえばどうなるか目に物見せてやる!」

怒鳴り、帯刀の柄に手がかかる。

やるか・・・?俺は動こうとする。

「この様な席で抜かれるか!」

丁原は気にした節が見えない。

其れもそのはず、尋常無い殺気を背後に控えた猛者が発している。

其れは、背筋を凍らせ、常人ならば逃げ出すほどの。

薫卓の傍に仕えた者が止める。

・・・あー、其の儘、殺されればよかったのに。あのまま抜いてれば、皿の上に首が乗っていた筈。

そんな危険なことを考えながら宴を眺めていた。

薫卓は渋々配下に止められ、柄から手を離す。

配下の采配で場を取り直し、再度和む場。

空気の読めない薫卓は再度念押しをする。

「先ほどの話、反対の者は一人、是は諸侯引いては天下の正論と考えてよかろうか?」

痛い・・・痛いよ・・・

流石に、先ほどは無言だった盧植中郎将が苦言を呈す。

「いい加減にした方が良い、貴殿の意思を押し付けるは、天下奪取の野望が有りと人に疑われますぞ」

「何!?貴様も予に刃向かうか!?」

再度、帯刀の柄に伸びる手。待ってましたとばかりに威圧の気を放つ俺。

一瞬でも抜けば御前の首を飛ばす。

無言で全てを語ってみる。

再度、傍らに立つ配下に止められる。

ちぃ・・・。

頭の良い部下に感謝しな。

部下の顔は、悪役、其れも馬鹿じゃない。

「張飛助かった・・・御前が居なかったら生きていなかったかもな」

先生から礼を言われる・・・。

いえいえ、魔除けぐらいにか使えないです。

凹んだが少し晴れた気がする。





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