【小説】

■□ 三国一 13 □■




粗方の敵を片付け終わった時には、日が傾き大地を赤く照らしていた。

俺達は朱シュンに鉄門峡陥落の報告と、大将の張宝の首を差し出す。

其れを見て朱シュンを含め其の部下の将軍達からどよめきが走る。

然し、俺は気付いていた・・・・玄徳は、心なしか震えている事に。

其れを見ながら複雑な感情が波紋の様に広がっていく。

普通、現代の日本で生まれた人間なら、人の死、ましてや人を殺すという事は、絵空事の先で・・・・

怯えてしまうのが普通だ。

俺が特異なのだ・・・・、幾ら玄を助ける為とはいえ・・・

そう思いながら、心配して玄徳に目線を其処に集中してたとき・・・

心に走ったうろたえを察知されないようにだろうか、奴は何時にも増して大仰に、見下した様に言ったのだった。

「おお、ご苦労であった。我々の方は突いては逃げる平原の敵、一方其方は居座る敵を倒すのみだからのう」

玄徳は苦笑いを浮かべ言う。

「そうですな、其れはやるにやれませぬものな、我らは運が良かった」

・・・・・はぁ?

幾らか前にでる俺と雲長。

怒りの形相で。

阿呆も流石に解ったのが、即ささと逃げる。

味方なはずなのに・・・是は無いよな・・・漢が滅んだ訳が解るよ。

悶々とした怒りをぶつける場所は無くて・・・・・まぁ近場の壁には穴を開けたが・・・・二つ・・・

俺と雲長が・・・・。

こんな時は、兵と己を鍛えるに限る。

自分の陣営の戻るや否や、俺は兵を集めさせる。

「范彊!今から兵の鍛錬をするぞ!皆を集めろ!!」

と叫ぶ。

「え!?張の親分・・・今日は休みじゃ・・・」

奴はのんびりと寝そべっていた体を起こし言う。

「・・・・もう十分休んだろう?早く集めろ!」

俺の怒りを漸く察知したのか、范彊は飛び起き部屋を出る。

其れを横目に、俺は獲物の蛇矛を振り回していた。

まぁ、明日は朱シュンの戦の腕前でも見てやろうじゃないか。

そう思いながら・・・。

「一!二!一!二!」

俺の号令で武器を振る・・・。

たまに可笑しな動きをすると、其の班の隊長が直す。

基本は500騎の元からの兵が隊長となり、その下を教えていくシステムだ。

我ながら良く出来たシステムだと思う・・・・。

ふと、動きが乱れている事に気付き、其処を注意する。

「おい!其処!動きが遅い!」

言われた付近の動きが直る・・・・うん・・・良し!

因みに、稽古は暇なときには必ずしている。

俺の理想とする一糸乱れぬ動きと、兵1人が2人分の仕事をするには其れぐらい必要だ。

4時間ぶっ通して良い汗を掻かしてやる。

息が上がっているのか、汗の粒が床に散っていた。

「良し!終り!お前ら食事は出来てるから食堂まで走れ!」

其の言葉に、全員一目散に食堂を目指す。

食と水は気を使う。病は其処から発祥する物が多いし。

他から見たら、食の質は良いそうだ。まぁ、俺達も同じ物を食べるのだから、必然的にそうなるのかもしれないが。

其の後は、俺と雲長の稽古。

最近では、互角になった戦い。

簡ヨウは其れを眺めて酒を一杯・・・

気づくと直ぐに一日が経ってしまう。

そんな風に日々を過ごしていた・・・・そんな時、敵を監視していた兵が息を切って戻ってくる・・・急な伝令だった。

平原で逃げていた黄巾賊の天公将軍張梁が弟の張宝が討たれたと聞き、うろたえた奴は城に篭城したらしい。

早速、城の四面を囲む。

袋の鼠・・・・そうほくそ笑む朱シュンは兵を引き連れ、猛攻撃をかける。

勿論、俺達だって指を銜えて見てた訳ではなく・・・・動きの遅い朱シュンの軍の中を縦横無尽に駆け、多大な貢献をして居た。

然し、城壁を高くし、兵糧も多いのか敵の士気は衰えを見せなかった。

そんな時だった・・・・

盧植・薫卓・皇甫嵩の連合軍が黄巾賊の大将張角の軍を破ったとの知らせが入る。

当然焦る、朱シュン。

そんな時だった・・・伝令が叫び・・・援軍の到着を知らせる。

俺達はどんな奴なのか気になり・・・迎えに走る。

其処には、大地に土煙を上げ赤い軍を率いてくる者がいた。

其の兵は1500騎。俺の理想とも言える兵の動きだった。

思わず其の動きに溜息が漏れる。

先頭で悠然手綱を操るのは赤い甲に赤い頭巾を被った猛者。

名を孫堅、字と文台。

そう、後の呉の祖・・・。

彼はこの戦況を見ると一言。

「どうやら、手を拱いている様だな」

孫堅は髭を歪ませ笑う。

男気のある人物のようだ。

俺達も其れに返し笑う。

「ありがたい。宜しくお願いします」

玄徳はニコニコと手を差し伸べる。

「嗚呼、此方こそ」

確と握られる手。二人とも人間的な魅力が有るのがわかる。

俺は玄徳の部下である事を誇りに思うかのように胸を張る。

「此方に控えるのは、私の部下の張飛と関羽です」

そう言って玄徳は俺達を誇らしげに紹介する。

それを見て孫堅も悪戯めいた笑みを浮かべ、

「宜しく、ほぉ、可也の猛者と見たが・・・今度手合わせを願おう」

にこやかに差し出される手。

俺は其れに合わせ、確りと握り返す。

其の手には独特の硬さが有った・・・。

それを感じニヤリと笑う。

剣だこがある・・・・相当やりこんでるな・・・・

そう思いながら・・・期待に胸を膨らませていた。

期待を裏切ることなく孫堅の軍は相応の動きを見せていた。

縦横無尽に駆け抜ける俺達と孫堅の軍。

敵側は消耗し、疲れ果て、兵糧は少なくなっていくようだった。

そんな有るとき、とうとう敵に内通者が出た。

黄巾賊天公将軍張梁の首を持った男の投降。

敵は総崩れとなり、其処に畳み掛けるように繰り出す兵。

二つの小隊が水の中の魚の様に縦横無尽に駆け回る。

孫堅は吼え剣が舞う。

雲長の回りでは首が跳ねる。

玄徳が弓を弾く。

俺の蛇矛も唸りを上げ人に吸い込まれていく。

次々に目ぼしい敵将の首が上がる。

そして血で黄色の布が染まる。

こうして、黄巾賊の乱は終焉を迎えたのだった。





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