【小説】

■□ 大鬼氏の憂鬱 9 □■




その日もとてものどかな日だった。

小鳥が囀り、心地よい風が頬を撫でる。

しかしそんな中、俺と近衛兵隊長のヴィルトシュヴァインとの間には

真剣な空気が流れる。

この前約束した剣術の鍛錬だった。

剣両手で構え、相手の隙を伺う。

流石は近衛兵隊隊長だけあった。

全く隙が無い。

先手必勝、俺は奴の剣先を抑え跳ね上げる。

よし!隙が出来た!

俺は叫びながら飛び込み、剣を振り下ろす。

しかし、奴は予想外に上手だった。金属音とともに止められ弾かれる。

チィ!

そのまま、そいつの剣が雨の様に降りかかってくる。

ぎりぎりのところで下がりかわし、防ぐ。

俺も負けて居られない。

剣で競り合ってるところで、足を踏み押し上げる。

効果はてき面で、体制を崩した奴の体が大きく傾く。

そのまま、俺は奴の顔面に剣先を当て、勝負がついた。

『・・・・・参りました』

可也、汚い遣り方だが、まぁ勝ちには勝ちだ。

「へへ・・・」

俺は転んだ奴を起こそうと手を伸ばす。

『次はその手は通用しませんからね』

その手が握られ、グイとおれは奴を起こしてやる。

「わかってるさ、まぁ今日のはまぐれだ」

『でも、私にも新しい発見でした。勉強になります』

そういって笑う。

まぁ、騎士道にあるまじき行為だからなぁ。

朝からやっていた、剣の稽古は、昼を過ぎていた。

『若しよければ、兵舎で昼食を取りませんか?

他の者達にも、アラカナ様の剣技をお教え願いたい』

「いや、俺のは剣というか喧嘩で身に付けたものだしな」

実際、居合と合気道をやってたにはやっていたが、

教えれるほどでは無いと思う。

『そんな事は御座いません、さぁ、行きましょう』

ぐいぐいと笑顔でひっぱられていった。




奴に手を引かれること数分。

訓練場から薄暗い回廊を抜けると大きな広間に出た。

ザワザワとしていて喧騒とした雰囲気の中、

美味しそうな匂いが漂う。

ここに居る者は皆、兵士のようだ。

横にも縦にもでかい男たちが、肉食獣の様に昼飯を食っている。

俺は奴を習い、大きな器に食料を盛っていく。

そのまま手近な場所にあった空席を見つける。

『ここの飯は見た目は余り良くないと思いますが、味はいけますんで。』

鳥の腿肉を上げた物・マッシュポテト・目玉焼きにスープ

が所狭しと皿に盛られている。

「かまわねえよ、腹が減ってるし、見た目なんぞ二の次だ」

席に着くと早速俺は美味そうな肉を食べようとする。

口を開けたときだった。

『おっ、ヴィル!なんだ?珍しいじゃないか連れなんて』

巨大な赤いライオンの様な男が声を掛けてくる。

ニヤニヤと細められる目は空の様なブルーだった。

『ああ、ガヴィニエス将軍、この方はアラカナ様だ。

剣に興味が有られる様なので手合わせをしていたのだ。』

奴はヴィルと此処ではよばれてるらしい。

「なぁ、俺にもこいつを紹介してくれ。」

人の良さそうな笑顔を振りまく。

そいつは、使い込まれた筋肉に獲物は2m程の大剣を背中に担いでいた。

見るからに強そうだ。

近衛兵隊長とどっちが強いのだろう。

出来る事なら、こいつにも剣の相手をしてもらいたいものだ。

『ああ、是は気が付きませんで、アラカナ様、ご紹介しましょう。

こちらは左翼軍団団長ガヴィニエス将軍。この国で知らぬ者は居ない程の猛者です』

俺は、近衛兵隊長から紹介を受ける。

へぇ、将軍かぁ、見た目を裏切ることなく強いのか。

『右翼軍団団長ヴィルトシュヴァイン将軍お褒めに預かり光栄だが、

ヴィル、御前も余り変わらんぞ?』

え?近衛兵隊長もすごいんじゃん。

・・・・いや、多分、軍の上の方の人間なのだと言う事はわかる。

そんなの、俺の身辺警護の為だけの隊に付けていいのか?

後で言ってやらねば・・・・

『俺のことはガヴィと呼んでくれ。』

「ああ、俺もアラカナじゃなく大鬼と呼んでくればいい。

なぁ、御前もヴィルトシュヴァインって呼びにくいからヴィルでいいか?」

『はい、大鬼様。』

「あ、早くしないとせっかくの飯が冷めちまう」

さっきから肉を手に持ったままだ。

俺は齧り付く。少し冷めていたが香辛料を付けて揚げた肉は俺の好きな味だった。

『大鬼殿の腕はどうだったんだ?相手したんだろ?』

『ああ、負けたぞ』

すかさず、ヴィルガ答えた。

『ほほぉ。御前を負かすとは、相当だな。大鬼殿、俺も今度手合わせ願う。』

「いや、正攻法で勝った訳じゃないから。余り期待しないでくれ」

過大評価されても、困るだけだ。俺は必死で言う。

『そういえば、近々武道大会があったな・・・』

とガヴィは思い出した様に話す。

『ああ、次の月の豊穣祭の催し物の一つにあったな』

『・・・大鬼殿も武芸大会に出られてはいかがかな?』

奴はニヤニヤと悪戯を提案する餓鬼の様に言う。

「武芸大会?」

そう、とガヴィはつづける

『年に一度武芸に秀でた各国の者達が集まり、その技を競い会う大会だ。

俺達は警護の為、出れんがな。各国の猛者と剣を交えれる好期、魅力的だぞ』

「・・・そうだな」

面白そうだ。

『おいガヴィ!そのようなこと勝手に・・・』

『何、問題は無かろう。まさか、国の宝が武芸大会で戦っておるなぞ

夢にも思うまい』

ニヤリと笑う。

御前とは仲良くなれそうだ。

そうと決まれば、次にやることは是だ。

「ヴィル、俺は武芸大会出るぞ、特訓だ!」

ヴィルは溜息を一つき、宥める様に言う。

『大鬼様!是は公務の一環。

貴方様は、参加者ではなく、

観覧する席に居らねばならない御身分なのですよ?』

「大丈夫ジジには言うから。それに俺は表舞台に顔を出すことはないぞ。

そういうことは性質じゃないしな」

と、言いながら租借する。

何やら国民は神々の王アラカナを大変見目麗しい黒い人物だと思っている節がある。

神話の世界の話なので、相当美化されたのだろう・・・・

その神々しい人物像は俺とかけ離れていた、けっ!是が俺なんだ。

男か女かわからない生き物なんて、気持ちが悪いだけだ。

まぁ、その人物像を壊さないためにも公に出ることはない。

俺は手早く食べると席を急いで立った。

「おし!特訓!」

『俺も手伝おう。面白そうだ』

とガヴィも立ち上がる。

頭を抱えるヴィル。

すまんな、長く俺とやっていくなら慣れてもらわなきゃ困るが。

『解りました。こうなったら私も中途半端なことはしません。

・・・厳しく教えますんで覚悟を。』

自棄になったように言う。

「望むところだ。」

俺はニヤリと笑う。




日が傾き、影が伸び、周りが赤くなる。

『ハァハァ・・・今日は此処までで』

『・・・っ、嗚呼。俺もいい加減疲れた』

「ゼーハー、ゼーハー、・・・っおう。」

し・・・・死ぬ・・・・

俺は、その場で後から倒れこむ。

特訓の間、意思の力で何とか立ってた様なもんだ。

ヴィルは言ったとおり鬼の様に厳しかった。

ガヴィも特訓中は奴と同様に厳しい。

擦り傷や切り傷、打撲。怪我のアンサンブルだ。

だが、奴らを相手にして可也の手ごたえ。

遣り甲斐を感じる。

純粋な強さを求める楽しさだった。

あー、手動かすのもしんどいわ。

暫く、そこで寝そべっていた。

土が冷たくて火照った体に気持ちいい。

目を瞑ってジッとしている。

『コウタロー!全く、こんなところで寝てたら又熱を出しますよ?』

遠くで声がする。

ジジだ、奴はスタスタと歩いてくると俺をヒョイと横抱きに抱き上げる。

「ちょ!やめろ!」

抵抗したが、疲れ果れているのもあり、本格的な反抗が出来ない。

『っ!陛下!』

『げ!陛下!』

2人とも驚いて飛び起き、そのまま敬礼をする。

『今日は兵舎で昼食を取ったのですか?

一緒に食べようと思ってたのに・・・』

ジジは不満そうだ。

訳が解らん。

「あぁ?俺が何処で誰と食べようと構わないだろ?」

『忙しい中、この時間だけが楽しみなんですよ?』

「食い意地が張ってるな、夕食だってあるだろ?」

そうだ、昼食をとるのが食べる時間ではないぞ。

『・・・違います、コウタローと摂る食事が楽しみなんです。

言わないと解りませんか?』

何言ってるんだ、誰と一緒に食べたって味は変わらんはずだ。

そして、ジジはそのまま来た道を戻る・・・

嗚呼、視線が痛い・・・・・・

「なぁ、武芸大会出てもいいか?」

俺は、おずおずと聞いてみる。

『駄目ですよ、貴方は只でさえ他国に狙われる存在なんですから。』

即答だった。まぁ予想はしてたが・・・。

俺は大げさに手を合わせお願いする。

「頼む!この通りだ!何でもするから・・・」

・・・あ、何でもはまずかったか?

『・・・何でも?本当ですか?』

まずい・・・・

「あ、・・・・ぉ、おう」

やべ、勢いで言っちまったぞ。

でも漢は、一度言った言葉に責任を持たねばならない。

損な、領分だ。

『・・・では、伽で貴方だけに動いて貰うのは?』

「・・・無理だ、すまんが」

無理です、要は騎上位でアンアンってやつだろ?

其れやるくらいなら、死んだ方がましだ。

何でもっていったが、

うう・・・・すまん・・・

漢が!俺の漢が・・・うぅ・・・

『そうですか・・・。それでは、貴方からキスを頂きたいですね』

外人だったら挨拶と言い聞かせる、

大丈夫挨拶!挨拶!・・・よし!

それなら俺でも出来そうだ。

「・・・おう」

俺は其の侭、奴の唇に口付ける。

触れるだけの其れだった。

良し!終わったぞ!離脱だ!

俺は直ぐに頭を離そうとする。

が、次の瞬間奴に頭を押さえられ、

口を深く重ねられる。蹂躙する舌に眩暈がしそうだ。

端から伝う唾液が、激しさを物語る。

いかん、このままでは・・・腰にクル。

強引に顔を引き離す。

視線を外し、顔を背ける。ァー、顔が火照る。

「・・・やったからな、約束は守れよ」

『勿論です、でも夕食の前に・・・貴方を食べたくなってしまいました』

俺は、無言でチョップした。





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