【小説】

■□ 大鬼氏の憂鬱 8 □■




「うぁあ!」

崎島との夜の悪夢でうなされ、叫びで起きる。

痛み、男という存在を引きずり下ろす為だけの行為。

皮肉なことだが、ジジとのあれは俺にとって存外に心の痛みになっていなかった。

崎島・・・・・

良くも悪くも奴を買っていたし、心を許してたんだろう。

肩の傷を掴まれた痛みを思い出す。

その痛みは俺の心まで届いてるようだ。

任侠は男で食ってるような業界だ、そうじゃない奴も居るが少なくとも俺はそうだった。

まさか、男に組み敷かれる時がこようとは、微塵にも想像できるだろうか?

借金返済の為に見目の良い男をアジアの亡国に売り飛ばしたときもあったが、

そんなの、大前提に女的なモノでソソルものがあったからであって、

このいかれた王子の思考回路は分かるはずもなく、

崎島の思案は、只俺の高い男としての、任侠としてのプライドを殺ぐための物。

少なくとも、それは効果覿面だったようだ。

漢を亡失した、大事なもの。

股間に付いてようが付いてまいが、負け犬の背負うもの。

崎島を跪かせ、殺したら、戻せるんだろうか?

苦いものがこみ上げてくる。

それにしても、よく抱けたよな・・・・アイツ。

俺は幾ら女みたいでも付いてるだけで立たないぞ。

ふと、目を彷徨せると隣には当たり前の様に寝る奴がいた。

熟睡してやがる・・・。

『・・ぅうん、コウタロー・・・・えへへへへへ』

って笑ってやる・・・・緊張感の無い・・・

顔は、女でもいけるぐらいの完璧な美貌・・・・・中身はアレだが。

ムカっとしたので奴の鼻を摘む。

ふがふが・・・・・。

笑顔だ・・・・。

そのまま蹴り倒し、ベッドから突き落とす。

・・・・・・・フンッ!!

そのまま俺は寝なおす。




崎島が起きた時、ベッドは冷たくなっていた。

居るはずの人物が居ない。

残るのは、激しい情事と暴力の後を示す血の染みと、空の手錠。

さすがのあの人でも抜けれない物を揃えたはずなのだが。

男は、何時も彼のために持っていたタバコを取り出し火をつける

口に銜え、吸い込む。

まずい・・・・・・・あんなに美味そうに吸った彼の気が知れない。

辛い上にキツイ。彼みたいだと思いながら・・・

昨夜の夜の出来事を思う

男の中の男と自他ともに認める貴方を抱いた・・・・

貴方は其れを只の暴力と思うだろうか?

それとも・・・・・・・・

この身にある激情を開いて見せたら

貴方はどう反応したのだろうか?

男であることにプライドを持ち、それで食う任侠の世界。

その中で生きてきた貴方、一流に。

真っ直ぐな鋭い目、鍛え抜かれた肢体。

後悔なんてしていない。

欲望なんてものじゃなく、食う、そんな衝動だった。

男は手元のベッドサイドの携帯を取る

「おう。俺だ、奴が消えた。探し出せ」

タバコの灰がポロリと落ち、ベッドを汚した。



『熱は下がったみたいですね。』

『アラカナ殿、良かった』

安堵したかのように、近衛兵隊長が言う。

『さぁ、伸ばしに伸ばした誓約の儀を今宵執り行いますよ、各国の迎賓を招待して、これ以上先延ばしにするわけにはいきません』

『護衛は我々にお任せください』

・・・嗚呼。

『さぁ、御前達』

背後の女中達が俺に群がる。

前回を凌ぐ勢いだ。

数時間後。

ヒラヒラの多い絹のシャツ、膝までの黒いズポンには手の込んだ銀の刺繍、膝まであるブーツには銀の飾りと事細かな装飾、

黒のビロード生地でできた燕尾服。前回と同じ服装ではあるが、髪を後に撫で付けられた、髭も剃られた・・・・。

・・・又伸ばすか。

しかし、代わり剣を渡される。是だよ是。

銀の細工の凝った作り。大きめの物で両手で扱うタイプのやつだ。

・・・勇者みたいなのが持ってそうなやつ、其れが一番解りやすい表現。

試し切りをジジでしてみたい危険な思いがふつふつと沸いてくるが、これから儀式する相手を亡き者にしては

いかんと理性で押しとどめる。

『コウタロー、そんな熱い眼差しで私を見て・・・』

がしりと肩を押さえ込まれ、キス・・・息が上がる。やべえ、やる方には慣れてるが、遣られるのはなれてねえ・・・。

『この続きは後で・・・・』

低い声を耳に吹き込まれ、耳朶をかまれる。

だから辞めろ!耳は俺の弱点なんだよ!!!

真っ赤になって耳を押さえる。

試し切り、やっぱりやるか・・・・。

殺気に気づいたのか、俺を護衛するはずの近衛兵隊がジジを守る。

・・・・・・。

『さぁ、儀式を行う準備が整いました・・・・アラカナ殿・・・顔が怖いですが・・・』

「いや・・・・」

アリウス宰相の後に付いて行く。

天井の高い回廊を通り抜けると、其れに負けないほどの巨大な建物が見える。

とてつもなく古そうな建物。

『コウタロー、手を・・・』

ジジの上に手を載せろって事だろう、是はどう見てもナイトが姫にエスコートする形になる気が・・・・

宰相がにこやかに言う

『是は、厳格な仕来たりにのっとってますので王子に合わせてください。』

迎賓の方々が居る中だ、間違っても試し切りなんてものはできない状態だ。

その前に、仕来たりにちゃんと沿っていなければならない。

我慢して此処は奴のエスコートを受けねばなるまい・・・。

本能と理性の合間で、のそのそと手を乗せる。

奴は万遍の笑みを零す。

俺は奴のエスコートで扉の前に立つ。

どうした大鬼孝太郎?!こんなものカチコミに比べれば屁でもない!

あ、でもオヤジから杯を貰った時思い出すな・・・。

巨大な扉が開くと中は存外に静かだった。

けれど、赤い道の両脇に人、人、人溢れんばかりの人だ。

一つ変わった事といえば最前列の人の持つ色が同じと言う事だろう。

その最前列両脇に居る、白金の美男美女が俺の歩みで一斉に膝を折り礼をする。

・・・とっても居心地が悪いのは俺だけか?

隣の奴は平然としたものだが。

俺は真正面の超豪華な椅子が2つの一つの前に立つ、そして振り返る。

ヨボヨボな爺さんが杖を片手に俺達の背後に立っていた。

『えー、これより誓約の儀を執り行う。』

爺さん・・・大丈夫か・・・

そんな心配をしそうなほどヨボヨボだ・・・

『えー、神々の王たる黒きアラカナよ、汝この者と共にこの国に富と栄光をもたらし、繁栄させ、国を守り、一生を捧げる事を誓うか?』

・・・・・何かに似てる・・・是は・・・・結婚式のアレに・・・

そんなことを考えてると、奴が耳打ちしてくる。

『”我、ここに誓おう共にあらん事を。”です』

物音一つ無い・・・・視線が痛い・・・・まな板の上の鯉だ。

「・・・・我、此処に誓おう共にあらん事を。」

『えー、ファルジア王国の第一王子よ、汝この者と共にの国に富と栄光をもたらし、繁栄させ、国を守り、一生を捧げる事を誓うか?』

『我、此処に誓おう共にあらん事を。』

即答だな、おい。御前、そういうことは良く考えていった方がいいぞ。

『双方誓いの証として血の交換を』

あ、指輪じゃないんだな。生臭いな・・・

恭しく、白銀の短剣を持った台が出てくる。

ジジは手を斬る。俺も習って斬る。

ヒラに十字に斬ったそれを合わせる様に手を握る。

・・・・破傷風にならないか心配だ。

爺さんは水を並々と注いだ盆を持っていた。

・・・ヨボヨボしてるぞ・・・・零してるし・・・大丈夫か?

俺は空いた片手で押さえてやる。そっちの方に気が向いていた。

その瞬間、ジジが重ねた手を盆に入れる。

白い閃光。

爺さんは落ち着いたものだった。

その光りが止むと、小さな白金の龍2匹が盆の上に浮いていた。

ザワザワと響く声。

そりゃそうだ、俺だって吃驚だ。

手に伝わり、手首に巻きつく。

そのまま硬化する。

龍のブレスレットになった様だが、生きてるよな・・?

爺はゆっくり空の盆を下げ杖を持ち上げる。

『是にて、誓約の儀を終える、我々の王黒きアラカナの栄光を!』

一斉にその言葉でさっきの白金の美男美女と爺が大型の猫になる。アラカナだ。

恭しく座り頭を垂れる猫達・・・・。

さしずめ俺は猫の大親分・・・・。

「御前達有、難う」

自然と出た言葉だった。

爺だった猫が笑った気がした。

次の瞬間消えた。

「・・・消えたぞ・・・」

『ええ、このためだけに御出でになったアラカナの方々でしたし・・・。』

奴は微笑みながら続ける。

『しかし・・・こんなに多くアラカナが来られたのは王国始まって以来です』

・・・・猫だけどな。

『貴方に恥じない王になるよう日々精進します』

腰に手が回る。・・・何処まで儀式なんだ?

「・・・そうだな、半端な王だったら俺が寝首を欠くからな」

上に立つならその位で行け。俺も出来うる限り手助けをしてやろう。




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