【小説】

■□ 大鬼氏の憂鬱 18 □■




杉内という兄貴分のヤクザがいた。

そいつも、俺と同じ様に死ぬほどタバコを呑むのが好きな人間だった

将来を有望された兄貴。

実力、名声共に・・・・。

然しこの世界、運も見方にしなきゃいけないらしい。

有る時、急な病で倒れ、其の儘帰らぬ人間となった。




病の名は、癌




食欲は無くなり、痩せこけ、腹水が溜り、激痛が全身を襲う。

体の変化に気づいたときにはもう遅く、体中に其れが転移していたらしい。

奴は、末期だった。

其れでも死ぬ最後までタバコは手からなくならなかった。

尊敬する人だった。

病室に足繁く通い、元気付けた俺。

兄貴は其れを笑い、俺らしくないと言った。

最後はタバコを銜え、其の儘・・・・・・。




似通った症状が出てきている・・・。

それ以外ではフィラリアぐらいしか知らなかった。アラカナも猫みたいなもんだから・・・と思ったりもするが。

どちらにしても、死ぬ病に変わりは無かった。

死ぬのか・・・。

覚悟はしていた・・・・・・といったら嘘になる。

まぁ、タバコを呑む行為は其れに成ると解ってたのだが・・・。

あれほど呑んでたら当然といったら、当然なのかもしれない。

自傷気味に笑う。

・・・・・・・少し早かったな。

もう少し先のことだと思ってた節がある。

急がねば・・・・。




ある夜、俺はジジを呼ぶ。

「頼みがある・・・・」

何時に無く真剣な俺に気づいたのか、奴は心配そうに俺を見る。

『コウタロー・・・・どうかしたの?』

「アラカナを俺の代で終わりにしたい・・・・・・・」

驚きで開かれる目、重ねるように言う俺。

「昔は違ったみたいだが、今のアラカナの処遇を聞いたんだ・・・・爺に・・・」

苦しげに、歪められた美しい顔。

『・・・・アレは我々の罪です・・・・私の国では先代の王が廃止させた悪習・・・』

そう、他の国では未だ生きる其れ。

降りてきたアラカナを落とし、その上声を奪い、足の腱を切る、あまつさえ目さえも・・・。

逃げ出さないように。他のモノにならないように・・・・閉じ込める為。

長寿の作用も信じられ、生血をすする者も居るという。




落とせば、牙と爪は無くなり、人の力で扱えるほどになる。

声を奪えば、人と精霊を操ることも出来なくなり。

足の腱を切れば、逃げる事が出来なくなる。

目を奪えば、他の者に縋る事も・・・・。




精霊は彼らが居るだけでその国を助ける。

其れを人間は利用した。




「だから、其れを終わりにさせるのが俺の使命なんだと思う・・・」

俺は奴を見る。

鋭く、真摯に。

『貴方の為でしたら、何と呼ばれようと、何千、何万の屍を乗り越えて見せましょう』

傅き、手の甲に唇を受ける。

『只・・・・只、私を・・・愛して・・・くれないでしょうか?』

其れだけ・・・。

不安げに見上げ揺れる目、美人が台無しだ。

苦笑いが込み上げて来る。

俺も愛ってもんは余りよくわからないが・・・・。

「出来るかどうか、わからねえが・・・・出来る事はやる・・・御前を・・・愛してやる」

奴の求めているものが、俺の想像する物と違うかもしれないが・・・。

引かれる手、腕の中、抱き締められる。

体の変化を知られたくは無かったが、流石にそう言っていられなかった。

顔に降る口付け。

荒くなる、息遣い。




てっきり、俺は其の儘済崩しで事が進むのかと思い。

身構える。

然し其れは、違ったようだ。

嬉しげに、頬擦りされ。

抱き締められるだけ。

拍子抜け。

チクリと、俺の良心が痛んだ気がした。




ファルジアの国王はその後、隣国アダラに宣戦布告をした。

戦火は瞬く間に、各国に飛び火する。





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