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■□ 大鬼氏の憂鬱 1 □■ 大鬼孝太郎38歳、男。 俺は今までに無い経験をしているようだ・・・・。 花園の様なところに俺はいた。 夢の様な世界が眼前に広がる。 木漏れ日の光に、飛び回る極彩色の蝶達、極彩色の花々、穏やかな風が頬を撫でる。 蝶が俺の目の前を回りながら飛ぶ、それはあたかも挨拶をしているようだった。 俺は其れを見ながら思う。 自分で言うのも何だが、俺の生きる世界とは正反対の世界だった。 闇の生き物、血と硝煙、煌く刀、消えない煙草の香り・・・そう其れが俺の世界。 ここが天国ってところなのかもな、俺は意識の端でそう思っていた。 俺は俗に言うヤクザという家業で若頭という位置についている。 確か、同じ傘下の組長との会合の時にカチコミがあり、鉄砲を持った男から 組長を守ったとこまでは覚えているのだが・・・・ 俺は思い出す・・・。 其れは定例の会合だった。 何時もどおりの本家の叔父貴の屋敷での事。 話を終えた俺たちはその儘待たせていたベンツに乗り込もうとした。 数人の部下を従えて門の前まで列を作らせる。 俺は親爺を庇いながらベンツのドアを開けさせる。 「親爺・・・・お疲れさんでした」 「うむ・・・」 そう言って・・・親爺がまさに乗る・・・其の時。 黒い影が目の端で飛び出てくる。 自然に動く体。抱き込むように親爺を守る俺。 咄嗟に庇う俺。 「死にさらせ!!」という叫び。 嘘の様な、爆竹の音・・・・良く知っている其れが拳銃の音だ。 瞬間、肩を熱い痛みが走って・・・・ 遠のく意識の中、親爺が叫んでいて・・・・揺さぶられる体は熱くて麻痺しているようだった。 「遠くで救急車だ!」と泣き叫ぶ声がして・・・ 視界が暗転したんだ・・・。 そして、気がついたら此処に来ていた。 溜息ひとつ。俺はぼんやりこの生暖かい世界を眺める。 死んで天国にきちまったのか・・・ まさか・・・・。と鼻で笑う。是までの生き方で何処を如何したら天国なんぞに来れるんだ? そう、自慢ではないが俺はこれまで良いことなんてこれっぽっちとしちゃいなかった。 極道の若頭ともなれば其れなりの悪事はこなして来ていた。 殺人、売春、人身売買、裏賭博・・・等など。 恐らく多すぎる死者のせいで神様とやらも、間違っちまったのだろう・・・・まぁ、人間にだってあることだ。 天を仰ぎ「人事(?)間違ってるぞ」と呟いたときだった・・・・・・・・ 背後から気配、俺は咄嗟に近くの茂みに身を潜める。 息を殺し、見守る・・・・気配はもう其処まで来ていた。 敵か?野獣か?・・・・そう思いながら武器になりそうなものを探す。 然し・・・・それは予想外の者の出現で・・・。 そこから出てきた生き物は・・・・そう・・・・絵本で有る王子ってもののようだ 高そうな宝石を散りばめた冠を頭に付けその冠に負けないほどの金の髪は肩まで伸び 上着のひらひらしたレースは何重にもなっていて、キュロットの様なズボンに白いタイツ・・・・・・・・・・ 背中には赤いビロードのマント。腰には金の是もまた豪勢な飾りのついた細身のサーベル。 背丈は184cmある俺よりも高い・・・・・・190は有りそうだ なのに白いタイツ・・・・・・・・・・・・・ 男のバレリーナ・・・まさにそれ・・・ 俺は笑いを堪えていると そいつは俺の方向を向きツカツカと迷いも無く近づき俺を抱き上げた。 そう、迷い無くだ・・・・・・。 『おお!是は!私はなんと言う幸運に恵まれたのだろう!!!!』 確りと抱かれ、持ち上げられる両の腕。 予想外に王子は力が強い様だ・・・・。 その男は俺を抱き上げて何か喜んでいるらしい・・・キラキラした瞳に長い睫。 持ち上げられ、見下ろす其の顔。そして俺の体も・・・・・。 その時俺は気づいた・・・・・・・・ 自分が人間という姿ではないことに。 一匹のネコの様な生き物になったらしい・・・・・ チータくらいだろうか・・・・山猫ぐらいだろうか・・・・ 記憶は定かではないがそのくらいの大きさになっている様だ 焦る俺。何で!?人間じゃない!? 人間の体は何処に置いて来た!? 『神々の王たる黒きアラカナよ』 兄ちゃんはさっきから理解不能な言葉を紡ぎながら俺を抱き上げたままだ・・・・ うっとりとした眼差しで此方を見られても・・・・・ 顔の作りをまじまじと見る・・・・・・・羨ましいくらいの美男子だ・・・・・ 白磁の肌に透き通るような深い緑の目、ハニーブロンドと言うのだろうか・・・濃い金の睫毛がそれを彩る。 金細工のような其れは、全て美しかった。 女だったら良かったのにな・・・そう思うくらいの顔。 俺の周りにも美男はいたりするが、如何せん家業がヤクザだけに男臭さの有る奴ら ばっかりだったな・・・・ こういう俗世離れした美しい男何てもんはいなかった・・・ハンサム、偉丈夫の部類の精悍な顔立ちの男ばかり まぁ、むさ苦しいと一言で言っては終わりだが・・・・・ とか何とか思ってたら・・・・・・・・ 何か勝手に進んでいたらしい・・・ぶつぶつと言っている・・・そして最後に・・・ 『私は貴方に一生の忠誠を尽くします・・・・・・・』 何かうっそりと呟くと・・・・・・・・ 目を潤ませ・・・形の良い唇・・・顔が近づいてきて・・・・・・・・・・・ 目を見開き、呆然と其れを眺める俺がいて・・・・・ サクっ・・・・・・・・・ それは無意識、俺の本能が男にそういうことをされるのを拒否したのだろう。 俺は咄嗟に爪を立て奴の作り物の様な美貌に傷を付けた・・・・・・・ 「俺は男だ!」 俺は怒りに身を膨らまし、そう叫ぶ。 いや待て、俺は今は外見は大きな猫。奴のアレは動物に対する手荒なスキンシップなのかもしれない。 いや、しかし俺も男、何千という部下を動かしてきた男の沽券というのもある・・・・・・・ そう思いながら・・・・・ふと支えていた両腕がなくなっていたことに気づく。 ん? 逆さに落ちながら漸く気づく。 驚いた兄ちゃんは俺を落としたらしい。 背中の衝撃とともに俺の視界は暗転した。 TOP 次 |