【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 8 □■




その後本隊が到着したのは夜も深くなったときだった。

廃墟の建物の一室をランプが照らす。

石造りの其れは古く・・・一見して手の込んだ物だと解る。

床には赤い絨毯が敷いてあった・・・・・。

調度品も質素ではあるがいい物ばかりだった。

恐らくこの持ち主は金持ちだったのだろう・・・・・そう思う

其の間ノエルは重厚な古びた色合いを醸し出す扉をノックする。

「第13小隊、副隊長ノエル・ハーク、以下部下一名入ります・・・」

暫くすると声が掛かる。

「入れ・・・・・」

其の言葉に俺達は扉を開け・・・真正面の机に深く座った人物の前に立つ。

「ブラッド、ノエル良くやった。」

そう言って男が穏やかに笑う。

この反政府組織EELAガザエフ司令官その人である。

ノエルに似たプラチナブロンドの髪を後ろに撫でつけ、コバルトブルーの瞳は穏やかだった。

蓄えた顎髭を触る癖はこの人の癖だ。

そうしながら暫しの間を置いて口を開く。

「だが、感心しないのはお前達以外が居ないという事だ」

解ってる・・・・・今回の功績は大きいが無くしたのも大きい

一個小隊、それも戦闘能力の高い人間を特別に集めた隊だった。

「幾ら最強の隊だからといって頭に阿呆をつけたのでは使えん」

其の言葉に鼻で笑うと・・・ノランの口が至極冷たく言い放つ

然し、司令官の目は鋭いままだった。

愛用のパイプをふかしながら言う。

「まぁな・・・・、だがソコをどうにかするのが副隊長のお前だろうが」

恐らく何か密約があったのだろう、深くは詮索しなかったが・・・・・・・・

ノランは睨み付けるが、舌打ちをした後、顔を背ける。

「もういい、ご苦労だった。連日の戦いで疲れてるだろう、今日はゆっくり休め・・・」

司令官は切り捨てるように言うと机上の書類を眺める。

是で話は終わりと言わんばかりに・・・。

俺達は礼をして部屋を出ようとする・・・・

然しノエルは何故か留まろうとしていた・・・・

・・・司令官に何か言う気か・・・?

俺は不穏な空気を察知して・・・・

「ノエルいこうぜ・・・・・」

俺は奴の肩に手を置き呼びかける。奴はビクリとした後、何事も無かったかのように歩き出す。

「なぁ、任務は終えたんだ・・・ゆっくりと羽でも伸ばそうぜ・・・」

そう楽しげに話してやる。

「嗚呼そうだな・・・」

奴は苦笑いを浮かべ俺を見る。

「そういえばさっき近くの道でバーがあったぞ。そこの酒失敬しちまおうぜ」

そう言い俺は奴の首に腕を巻きつけ締め付けてやる・・・・。

俺はその時気づかなかった、グレーの瞳に暗いものが宿っていることなど。




ノエルと俺は約束通りその夜飲み明かした。

廃墟のバーから手付かずの酒を持ち出し・・・手ごろな場所を見つけ飲む。

陽気に語り合い、酒を酌み交わす・・・・辛い任務を癒すように・・・。

そして、何時もの様に潰れるまで飲み明かす・・・・・何も変わらない風景。

俺はそう思いながら、胸焼けがするような強い酒を胃に流し込んだのだった。




ウゥゥゥゥゥーウゥゥゥゥゥゥゥーー!

夜明け前だろうか俺は、けたたましいサイレンと叫び声で目が覚めた。

俺はいつの間にか寝てしまっていたらしい。ノエルが運んでくれたのだろう俺はベッドに寝かされていた。

眠い目をこすり習慣的に俺はノエルを探す、しかしノエルの気配はこの部屋にはなかった。

一緒に酒を飲んでいたはずのノエルの姿は消えていたのだった。

仕方なく、俺は騒ぎの正体を確かめるべく扉を開けた。

吹き荒れる熱風、外に出るとそこは火の海が広がる。

俺は呆然と立ち尽くしてしまっていた。

背後に人の気配を感じ振り向く。

そこには敵兵を従えたノエルが拳銃を向けていた。

普段表情でも少ない奴の顔はそのとき特別に無表情で俺は心がジクジクした気がした。

「ノエル・・・・・・・・・・どういう事だ?」

乾いた笑いが沸いてくる何よりも信じていた人間だったから・・・・・

「ノエル!!!!!!!」

叫びと其れは同時だった。

俺は敵に飛び掛っていく。

敵兵達は瞬間、血飛沫を上げる。

何てことは無い・・・腰に何時も持っているナイフで相手の頚動脈を切っただけ。

残った奴らが俺に拳銃を向けようとする・・・・。

敵のスローモーションの様な動き・・・・・。

其れの照準が合う前に懐に飛び込み・・・血飛沫を浴びる。

生暖かい其れを全身に浴びる。

俺は屍を蹴り・・・冷静な目で其れを見る。

そして其れを一部始終見ていた奴に向き直る・・・。

「・・・・ノエル・・・・・・どういう事だ?」

そして、再び・・・・同じ問いかけ・・・。

ニヤリと嗤う奴・・・・俺はカッと目を見開く・・・・。

「裏切ったのかぁあああああああああああああああ!!!?」

そう叫びながら・・・・・地を蹴り、ノエルの懐に潜り込む。

流れるように降りかかるナイフを奴は凌ぐ。

俺は無表情になり、自分の中のスイッチを押す。

瞬間・・・・・・、ノエルは廊下の壁に吹き飛ばされる。

ナイフを凌いだ奴をその儘当身で飛ばしたのだ・・・・。

流石の奴でも是は効いた様で・・・・呻き・・・倒れこむ・・・。

俺は其れを見ながらゆっくりと近づく・・・・・

片手でノエルの巨体を持ち上げ・・・・壁に貼り付ける・・・。

「・・・・・どういう事だ?ノエル・・・・」

奴は苦しげに目を細め、口の端からは血を出していた。

俺はその儘奴の頚動脈に自分の牙を当てる・・・・。

唯、横に動かすだけの動作だった・・・。

「殺せ・・・・」

奴の口からも其の答えが出てくる・・・。

然し・・・・・・何故か・・・・・其れは出来なかった・・・・・。

ためらい、一瞬の・・・・・。

然し・・・・・それは戦場では大きな事で・・・。

「そうしないと・・・・お前はこの後、自分を呪う羽目になるぞ・・・」

そう言われる・・・・・。

俺は良い訳じみた言葉を言ってみる・・・。

「俺は未だ・・・どうしてこんな事をしたのか・・・理由を聞いていないからな・・・・・・・」

そう言い・・・・奴の巨体を下ろしてやる・・・・。

良い訳を聞いてやろう・・・・とした時だった。

「ブラッド・・・・お前は甘すぎる・・・・特に身内にはな・・・・・」

悲しげに笑う・・・・奴の顔。

それと同時に背後から衝撃が走り俺は意識を手放した。







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