【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 4 □■




「あー、こちらM4-676管制官応答願います」

事前の用事を済ませ、操縦室に乗り込んだ。

後は出発するのみである。

「こちら管制官、どうぞ」

「13時30分これよりPKOフロリダ輸送空港発、エンタレス星セントラル空港着便発射します。」

「了解、出発10秒前・9・8・7・6・・・・」

「クロエラさんてすごいですね・・・・・」

急に話しかけられる。

「5」

「?なぜ?」

俺はよく理解できなかったので聞き返す。

「4」

「いぇ、女性なのにあんな危険なところに・・・」

「3」

「ライアン、夢を壊すようで悪いが・・・・・・・・」

「2」

「クロエラは男だぞ」

「1」

「え!?」

「0}




轟音と共に全身にGがかかる。暫くすると船は大気圏から飛び出し、宇宙独特の闇と散りばめられた星の世界になった。

「大気圏無事突入、これより自動操縦に切り替えます」

いつもの一通りの作業を済ませた、自動操縦のスイッチに切り替え、予定航路を入力する。

「さて、此れからゲートまで行って其処からワープだ。」

このまま月のGで加速してそのままゲートに着くという算段だ。

「いやー、ジェットコースターみたいでしたねぇ・・・・・」

と、背後から間の抜けた、ピエロのような声があった・・・・・アーサー・ベックだ。

何時の間にやら、客室から抜け出して操縦室まで来ている。

「ベック博士、どうかされましたか?」

振り向くと其処には護衛のヨハネス・フォン・シュレイヤーを後ろに従えたアーサー・ベックがいた。

尻を摩りながらそいつは近寄ってきた。

「僕、臀部を打ち付けてしまいました。」

「発射の時には、シートに座っていたのでは?」

与えられた客室には、大気圏突入時用のシートがある。相当のへまをしない限り、

安全に大気圏外までいけるはずなのである。

「いえ、ちょっと用をたしてまして、そうしたら急に動き出すもんだからびっくりしましたよ。」

危機管理能力ゼロな博士にいっても無駄なのだろう。

まぁいい。

「博士、では今度は本当に危険ですのでシートに座っていてください。

これから月の経路を辿ってゲートまで行きますんで。」

あそこで危険なことをされたら適わない。

「あれ、もうワープですか?初めての宇宙だから月をもっとちゃんと見たかったなぁ」

「あと、30分ほどしたらゲートに着きますんで、そのときは・・・・・」

「ああそれはよかった・・・・・・・・・・・では」

手をひらひらとさせながら操縦室から出て行った。


ベック博士は苦手だ。

まぁ、こちらに危害が加わらなければ何も言うまい。

「俺たちもゲートまでは少し時間があるからあの博士に付いて月の見物でもしたらどうだ?」

「いえ・・・・・・・勤務中ですし・・・・」

「そうか・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

なんと言うか、話しづらい・・・・・・・・・・・・この沈黙の間はなんだろう・・・・・・・・・

「少し荷物のほうをチェックしてくる。ライアンは操縦室の方で待機しててくれ。」

そう言うと、俺は逃げるように操縦室を後にした。

俺は元々人とのコミュニケーションがうまく出来ない人間なんだと思う。

目立ちたくないし、出来ることなら今回も黙々と一人、荷物を運ぶだけにしたかった。

荷物は犯罪者だけではなく、エンタレスの食料も運ぶ役を担っていた。又向こうで取れたレアメタルを帰還するときに持ち帰る。

それを大戦直後この職に就いたころから延々と続けている。

面白味のない人間の部類に入っていると自分でも自覚はある。

だから35歳という年になっても未だ特別付き合っている女性は居なかったし。

それに汚染物質に汚された地球は、女性の出生率が少なく又、女性が生まれても生殖能力の欠けた者が生まれていた。

必然的に、子孫を残せるものは特権階級だけになっている時代である。

ヒエラルキーの下に居る俺には女性と関係を持つのさえ夢の又夢であった。



食料庫にある荷物の確認とその他生活品等の数の確認をしているとライアンから呼び出しが入った。

そろそろゲートに着く頃である。

しかし、操縦室に着くと何やら事の様子が違っていた。

「どうした?」

不安そうに無線と向き合うライアンに声を掛ける。

俺を確認して不安な様子だった彼は安心した表情になる。

初航海なのに操縦室に一人残してしまったのである、悪いことをしてしまった。

「いえ、何やら無線が入ってるんですけど音波が途切れてしまって・・・・・・」

「M-676・・・・・・・・・・ザザザ・・・・・・・・・・・・・・M−67・・・・・・・・・・・・ザザザザザザ」

どうやら太陽フレアのせいで聞き取りづらくなっていた・・・・・・・・。

「一応月にある、基地と交信して何かあったのか聞いてみよう。」

俺は周波数を月面基地にある電波の数値にかえた

「メーデーメーデ、こちら輸送艦M-676聞こえましたら応答どうぞ」

「こちら。月面基地コントロールフロアです、どうぞ」

ビンゴ、応答が帰ってきた。

恐らく最近入ったのであろう声からすると未だ若かった。

「何やら、こちらの艦にPKOフロリダ輸送空港・管制塔から無線が入ってきていたのだがフレアのせいで良く聞き取れない。

すまないが、何かそちらに連絡は入ってなかったか確認して欲しい」

「了解、今確認してみます」

フレアで無線の調子が良くなくなるのはたまにあるので慣れていた。

大抵こちらに届かなくなると月面基地での連絡を聞く状態になる。

月面基地の通信機器はこの艦の10倍はあるかと思われる大きさなので大抵のことでは通信は途切れない。

「M-676、特に何も連絡は入っていませんが・・・・」

「了解、さっき食料の確認をしたら数字が少し多かったからそのせいかもしれない、

大きなことじゃないんでM-676は予定通り出発することにします」

「分かりました、良い航海を」

「有難う」

俺は無線を切る。後ろに居たライアンは先ほどの会話で安心したようだ。

「と、言うわけで予定通りこのままゲートに行ってワープだ」

「分かりました」

俺は放送を艦内放送に切り替えた。

「只今より、艦はワープへの準備に入ります。安全のためお近くのシートに着席の程よろしくお願いいたします。」

又さっきのようなことをされたら責任問題になるので一応知らせておく。

「ワープまで10秒前・9・8・7・6・5・・・・・」

今ゲートは目前に在るのだが何かがおかしい・・・・・・・・

「4」

「3」

「2」

ワープには莫大なエネルギーが必要である。4つの専用の装置をつかってエネルギースポットを作り飛ぶのだが、

その一つが起動していないのだ!

「くそ!止まれ!」

緊急停止装置を押したが、カウントに入ってる艦はそう簡単には止まらない。




そのまま艦はエネルギースポットに吸い込まれた。




TOP
inserted by FC2 system