【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 21 □■




俺とヨハネスの間に沈黙が流れる・・・・

その重い沈黙を破ったのはヨハネスだった。

「親爺は、ロシア軍の研究施設の所長だった男で・・・・世界的なな遺伝子工学の学者だった・・・。

前妻の間に出来た子がエリー・フォン・シュレイヤー・・・・君のオリジナルだ。

後妻との間に出来た子がこの俺だ・・・・そして・・・君は親爺の形見でもある・・・」

「俺は・・・・エリーじゃない・・・・」

其れだけを振り絞る。

「嗚呼・・・解ってる・・・・然し・・・当たり前だが、君はそっくりなんだ・・・彼女に・・・・・・

違うと言い聞かせても・・・君の顔を見るたびみ元気だった姉の笑顔を思い出してしまうんだ・・・」

何時までも・・・・何時までも・・・・彼女の亡霊が俺を苛む。

「俺は・・・・俺だ」

唇を噛締め其れだけを言う・・・・。

「すまない・・・・今更な話だな・・・然し・・・俺にとって君は大事な人なんだ」

そう言い・・・・強い瞳が俺を見つめる。

其れに狼狽する俺。

だってそうだろ?実も知らない人間に大事な人だと言われたら・・・

「可笑しすぎる・・・・異母とはいえ・・・血の綱がった姉だぞ・・・・何故こんな事に成ってるんだ?」

俺は悲鳴を上げるように・・・・そう問いかける。

その問いはヨハネスには思いのほか響いたらしく・・・唇を噛締め・・・・俯く。

「・・・・最初は純粋に君の幸せ・・・・姉の幸せを願っていたんだ・・・・アーサーが居たから・・・

彼の姉に対する想いは良く知っていたから・・・然し・・・アーサーが突然の事故で亡くなった時・・・

自我を失った君を見て・・・俺にも君を愛する資格が在るんじゃないのか・・・・?そんな想いが俺を過ぎった・・・」

呆然とする俺・・・・ヨハネスは苦笑いを浮かべると・・・俺の頬を手の甲で触れる・・・・ゆっくりと・・・

「・・・・元から・・・この想いは在ったんだよ・・・唯、理性とモラルで押し殺してただけ・・・其れだけだ」

苦しげな・・・自白の台詞・・・。

俺は唯・・・其れを大人しく聞いてるしかなくて・・・・。

「俺は・・・・俺は・・・・アーサーを愛してるんだ・・・・」

そううわ言の様に呟くしか出来なかった。

何処かでピエロのように笑う俺が問いかける・・・・・

『オイオイ・・・・最初にマトモに愛を囁かれた人間ってだけで、

お前は初めて親を見た雛鳥宛ら・・・そいつに付いてってるんだぞ?

もう親鳥は死んだんだ・・・いい加減目を覚ませ・・・』

違う!俺も彼の事が好きに成っていたんだ・・・・

最初の切欠はそうでも・・・・彼の存在が俺の中を占めたんだ・・・・

『笑わせるな・・・・唯寄りかかるだけの存在が欲しいだけだろ?女々しいな・・・

現に・・・・アーサーが死んだとき・・・お前がヨハネスをアーサーに見立てて・・・現実から目を逸らしたんじゃないか・・・』

悲鳴のように俺は否定する・・・・・ 彼を愛したのは本当なんだ! 哀れな・・・現実逃避・・・弱さで逃げてしまえば其れで終わり・・・・

「彼の後を追ったり・・・しないでくれ・・・」

気づいたときには・・・・背後から抱きすくめられていて・・・・

「彼も其れは望んでないはずだ・・・彼との子供も居る・・・俺は君達の為なら何でもする・・・だから・・・」

悲鳴のような嘆願・・・・・。

振り向けなかった・・・・・。

唯、背中越しに響く声を受けるしかなくて・・・・。

・・・・・・俺は愛される事に慣れていないんだ・・・・・。

地球に居たときには・・・・夢にも思わなかった・・・・唯・・・戦場の悪夢しかなくて・・・。

今は・・・・この雁字搦めの関係が俺を悩ませる。


重い現実が俺を切り裂く。

唯一の女の俺・・・・。

聖書のイブはアダムだけが居たが・・・・

アダムの役はアーサーを含め・・・・四人・・・・。

ほかの皆は・・・・どう思ってるんだ?

・・・・・この閉ざされた世界で・・・・子孫を残したいのか?

此の儘、何もせず死ぬ・・・・恐らく・・・其れはないと思うが・・・。

目の前の現実。

良く考えれば・・・・女は俺だけな訳で・・・・。

本来なら・・・争いが起きても・・・可笑しい事ではないのかも知れない・・・・

本能的に・・・・動物は遺伝子を残さなくてはいけないのだから・・・・

「・・・・なぁ・・・俺はこの船の皆の子を将来生まなきゃ行けない・・・って事だよな?」

其処に愛は無くても・・・・義務として・・・・。

俺にだって解る事・・・其れは俺がもしこんな体じゃ無く・・・普通の男のままだったら・・・其れを望むだろう事。

愛は無い・・・・けれど・・・何も残さず死ぬ・・・恐怖。
ふと・・・・過ぎった・・・言葉。
『単刀直入に言うと、ブラッド君を共有しないか?・・・ってお誘いなんだ。

恐らく君には悪い条件ではないと思うんだが・・・・・・・』

アーサーがノエルに言った台詞が重く乗りかかる。

共有・・・・・。

最初から其れは前提の話だった筈・・・・。

アーサーとの関係も・・・・・?

ヨハネスは無言で抱きしめただけだった・・・・。

その意味が・・・・、俺の感覚を鈍らせる。

今更・・・・だよな・・・・。

溜息・・・・目を閉じ・・・・口を開く。

「全員の子を生んだら・・・俺は・・・・俺の遣りたい様に生きたい・・・」

アーサーを飲み込んだあの崖の近くで住むのも良い・・・そう思いながら・・・。

「嗚呼・・・俺も出来るだけのことをしよう・・・」

目を閉じて・・・其れを感じる。

「まずは・・・皆にその意思が在るのか・・・・」

俺は溜息を一つ付き・・・・其れを零した。







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