【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 20 □■




狂乱の宴が幕を閉じた・・・・・其の時。

アーサーである筈の男は、ベッドサイドに腰を賭け・・・・両手を顔の前で組み祈るようにしていた。

俺は其れを唯見守るしかなかった・・・・。

何故彼がそんな事をしているかが解らなくて・・・・・。

彼に手を伸ばそうとした・・・・其の時。

扉の開く音が不意にする・・・。

咄嗟に、其方を向く俺。

「・・・・・・おい・・・」

其の声は冷たく発せられた。

扉の前に立ちはだかるノエルが居た・・・。

眉間に皺を寄せ・・・彼の冷たい瞳はアイスマンの其れだった。

腹の底からの声。其れは怒りを含んでいて・・・

「二度目は無い・・・そう言った筈だが・・・?」

そう言いながらゆっくりと此方に近づく・・・・猛獣の様に・・・足音も無く。

手には拳銃が黒く物騒な光を放っていた。

見下したような目をアーサーに向け・・・手に持った其れをゆっくり・・・持ち上げる。

銃口が、アーサーの額に向けられる・・・・・・。

金属質の音がする、走る戦慄・・・・・・。

「ブラッド・・・・・お前もお前だ・・・」

唾を吐くように・・・・・言われる。

ノエルは冷たい目を俺に向けてくる。

口の端を歪ませて笑われる其れ。

「何時まで寝ぼけているつもりだブラッド?・・・・・若し、その儘寝ぼけていると言うのならば・・・・」

そう言うや否や・・・・安全装置が外される・・・・。

「お前の大事なアーサーを殺すが・・・・・」

そう言い様・・・・ドスンッ!と言う鈍い音が響く。

瞬間・・・・呻き体を丸めるアーサー・・・・・

「ノエル辞めろ!」

そう叫ぶと俺は奴に飛び掛る・・・・然し・・・次の瞬間・・・吹き飛ばされる

奴は口の端をゆがめ嗤う・・・嘲る様に。

「大人しくそこで黙って見てるんだな・・・・・牙の抜けたお前なんぞ、たかが知れてる」

俺は痛みに耐え・・・・拳を握る・・・・・・。

アーサーの太股へ打ち込んだらしく、彼のズボンが見る見る赤く染まっていく・・・・・・・。

血と硝煙の臭い・・・・・・・・。

「さぁ・・・・・・どうする?」

冷たい目が此方を見る。

ゆっくりと再度銃口を額に擦り付ける・・・・・。

打ち付けたのか・・・・頭が割れるようだった・・・・・

ピシリ・・・何かに皹が入る音がする・・・・

「あ・・・・・・・・・あ・・・・」

目を見開き頭を抱える・・・・・震える・・・。

頭の中をアーサーの映像が回っていく・・・・・走馬灯の様に・・・

出会った頃から・・・・・・悪夢の夜・・・そしてお互いを認め合った・・・・・

アーサーに向けられた拳銃の絞られる・・・指・・・・・・・

一際大きく見開く・・・・・・白い閃光が俺の頭を走る・・・・・・痛い・・・・・・

うずくまり、其の痛みに耐える・・・・・・・・

微笑む彼は俺の手を握ってくれていて・・・・・

涙が溢れて来た・・・・・・・・・。





そして・・・・最後に・・・・アーサーが死んだ日の記憶の蓋が開く。

そう・・・・事故があって・・・・崖に落ちたんだ・・・・

フラッシュバックの様に浮かぶその映像・・・・・




唯・・・唯、涙が・・・・。

アーサー・・・慟哭が俺を支配して・・・・其れを抑える為に

自分の口を両手で塞ぐ・・・・・。

ふと・・・・そこで矛盾に気付く・・・・・・。




ジャア・・・・・俺ガアーサーダト思ッテタ人間ハ誰ナンダ?




恐る恐る・・・・・長い時間をかけて・・・・頭を上げる・・・・・

其処には・・・・・・アーサーが居なくて・・・




「・・・・あ・・・・・・あ・・・・よはねす・・・・?」




儚い幻は消え・・・・・残ったのは、血と硝煙・・・・そして拭えない現実。




腿を撃たれたヨハネスは、俺の手当てを受けていた・・・・。

「・・・・すまなかった・・・・」

第一声が其れだった。

「・・・・いや・・・俺のほうこそ・・・イカレテタとはいえ・・・・お前をアーサーと思っちまうなんて、

どうかしてるよな・・・」

そう言い笑って見る。

上手く笑えただろうか・・・・そう思いながら。

腿の根元を押さえ・・・止血する。

其の間、手際よく・・・消毒・・・塗り薬を塗っていく。

俺は唇を噛み締め・・・・言う

「本当に・・・・俺のほうこそ・・・その・・・嫌な思いをさせて・・・ごめん・・・」

「嫌・・・俺もアーサーを守れなかったんだ・・・」

互いに下を俯き・・・・零す声。其れは小さく・・・・自分に戒めているかのように・・・。

俺はこの空気を壊そうと勤めて明るく振舞う・・・・

「あ、今度こそアーサーの墓参りというか・・・その崖にいって花の一本でも手向けたいんだが・・・良いか?」
「・・・・・嗚呼」

搾り出すような声。

「さて・・・後は包帯を巻くだけだ・・・良かったなぁ弾・・・貫通してて。

それに上手く腱と頚動脈を外してある、お前運が良いよ」

そう言いながら・・・・少し遠くにある包帯を取ろうと手を伸ばした・・・・その時だった。

「・・・・俺はブラッドに言わなきゃいけないことがある・・・」

「・・・?何だよ・・・さっきのあれの事か?あれは事故みたいなもんだし・・・その・・・気にする事じゃない」

顔が赤くなるのが解る・・・・というか・・・俺のあの顔を見られたって・・・可也恥ずかしい事だよな・・・

「・・・実は・・・俺と、ブラッドのオリジナル・・・・エリーとは・・・・」

俺は漸く届いた包帯を手に持ち・・・・其れを何気なく聞いていた。

けれど・・・・それはとんでもない重さを持って後頭部を殴りつけた。

「エリーとは・・・・・・・・血の繋がった姉と弟なんだ・・・・」

・・・・え・・・?

零れ落ちる包帯・・・・其れは転がり落ちる・・・ヨハネスの足元に・・・

俺は呆然と其れを眺めていた・・・・。

当の本人・・・ヨハネスは強い目で俺を見返していた。




ジーザス・・・・そう呟いて天を仰ぎたかった・・・・・。

近親相姦・・・・・其れは罪・・・・・甘美で苦い毒の名前。







拍手する

TOP
inserted by FC2 system