【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 18 □■




産後の不安定な時期。

其れに追い討ちを掛ける様に、栄養も不十分な状態。

日に日にやせ細っていく・・・・。

この状況が続く様だと、生命の危険すら・・・。

ノエルや、ライアンにも焦りが出始める。




寒い・・・。

痛い・・・。

悲しい・・・。

でも、忘れてしまった・・・・・。

大事な何か。

無くしてしまった。

其処は闇の中、一人身を縮込ませて只、足元を見ているだけ。




其処は、艦内の食堂、何時もと代わり映えのしない、スープとシリアル。

俺は、二人が揃うのを待って重い口を開く。

其れは、決意を込めて。

「・・・・ブラッドのあの現場に連れて行こうと思う」

俺は、二人を見つめて言う。

二人は驚き、視線を見合わせる。

暫くの沈黙が訪れる。

其れを破り、口を開いたのは、ノエルだった。

「・・・あそこは危険な場所だ、御前だけなら未だしも、ブラッドを行かせる訳には行かない」

彼は冷徹な目を俺に向け、口の端歪ませを言い放つ。

咄嗟なのか、被せるように、ライアンが言う。

彼は眉間の皺を深め口を開く。

「俺は!・・・・彼の為にも行った方がいいと思います・・・」

そして再び沈黙。絡み合う目線。無言の言葉に俺は口を開けざるおえなかった。

「・・・・ブラッドは現実に耐え切れず、逃避してしまった。時間が解決する問題だが、此の侭ではブラッドの体が持たない・・・。

少しでも意識を取り戻す可能性があるなら・・・」

俺は悲鳴の様に声を上げる。

藁にをも縋る気だった・・・・。

其れを無言で見た、ノエルは言い捨てる。

「・・・・好きにしろ」

然し、と続く。

「御前がどうなろうと構いやしないが、ブラッドは・・・・解るな?」

最後まで言う気は無いらしい。

「嗚呼」

俺は冷静に答える。

其の儘彼は、部屋から出て行ってしまう。

「先輩の事・・・・頼みます」

ライアンは縋るような目で俺を見ると、逃げるように出て行く。

一人食堂に残された俺は、幾分疲れた溜息を吐く。

そうして、俺は強引にブラッドを連れ出したのだった。

アーサーを飲み込んだあの谷へと・・・・。




乾いた風、あの山間部が目に飛び込んでくる。

あの後も崖崩れが起こったらしい、前回と風景が変わっていた。

俺に体を支えられたブラッドは静かに其処を見つめていた。

今日は何時になく大人しかった。

「ブラッド聞いてくれ・・・、アーサは此処で崖に落ちてしまったんだ・・・・・」

「・・・・・・」

無言で歩き、其の崖を覗く。

へたり込む体。

俺は、痛ましくて直視出来ないで居た。

「・・・・・もう、彼は居ないんだ・・・・・」

絞った声を出す。

「アーサー・・・・」

ブラッドの声。

目は開いたまま涙を流す。

其れは頬を幾度と無く濡らしていた。

堪らずに、抱き締める。

漸く俺の存在に気付いたらしい、彼の手が俺の頬に触れる。

「何、可笑しなこと言ってるんだよ・・・・・アーサー・・・御前は此処にいるじゃないか・・・」

瞬間、氷り付く。

まさか・・・・・。まさか・・・・・・・。

目を見開き、彼を見る。

彼は、何事も無かったように何時もの表情だった。

穏やかな笑み。彼に向けられるべき表情・・・・。

幾分痩せた其れは、痛ましかった。

「・・・・ああ、悪い」

嗚呼、神様・・・・・。

泣きそうに成るのを懸命に堪える。

「何時もの悪い冗談さ」

己に言い聞かせ、笑みを作り、吐きたくなる気持ちを堪え、漸く言葉を出す。

其れが虚でも・・・・・彼と彼女の為なら・・・。








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