【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 17 □■




俺は、ブラッドの分の食べ物をトレイに乗せ、部屋をノックした。

反応の無い部屋・・・・、此処一週間は是である。

部屋の主は、虚空を見つめ、無表情だった。

両の手は傷を防ぐ為に布で包まれたまま。

あれから、魂の抜け殻だけが有る状態。

俺は、ベッドサイドに腰をかけ、食料を与えようとする。

祈るように、スプーンを口元に持っていく。

お願いだ・・・・口を開けてくれ・・・・・。

この一週間水すら受けつけず、どんどんと痩せていくブラッド。

強く押し付けても反応は一緒だった。

「ブラッド・・・・・」

俺は彼らの幸せを願うだけだったのに・・・・。

運命を呪っても呪い切れなかった。

見ているのも辛い・・・・。

ふと、腕に抱いた子が泣き出す・・・。

然し、目には何も写さない・・・・。

何も、写そうとしない・・・・・・。

完全なこの世との拒絶だった。

心の大事な物を、亡くなってしまったのだから。

俺は諦めて、泣き止まない赤子を取り上げようとする。

「ぅぁあああああああああああ!」

言葉にならない叫び声を上げ、其れを阻止しようとする彼。

軋むベッド。

「お願いだ!ブラッド!戻って来い!!」

祈るように・・・・・。

俺の姉と同じ遺伝子を持つ彼には・・・・・・・・幸せになってもらいたいから・・・。

両の手を押さえ、祈る様に肩に縋る。




エリー・・・・、彼女を愛してるから・・・・。




是は悪魔の囁き。

祈りとは裏腹の・・・。

其れは幻想と解っていても・・・。

俺では駄目のだろうか・・・・・?

全て破壊しつくして、肉の痛みと、血の絆で、彼の意識を、引きずり戻せないのか・・・?

哂う其れ、甘美をまとい。

ダメダ・・・・・・ソンナコトシタラ・・・・。

理性で押さえる其れ。

手が空を握り、白くなるほど自身を締める。

締め、握ったモノは言う。
ホントウニイイノカ?

息が出来ない・・・・。

溺れる人間。

闇の中で・・・・。

然し、0%に近いと解っても・・・・・・。

其れは、首をもたげ、醜悪な姿が見え隠れする。

狂気を狂気で洗い流せないだろうか・・・・?

俺達が血で血を洗い流したように・・・・。

耳で鼓動が鳴る。

其れが鳴り響く度に、理性が麻痺をする。

無意識に手が彼の顎を掬い上げる・・・。

随分、線の細くなった其れは、彼女の面影を思い出させる・・・・・。

合わない視線、俺を・・・・。

俺を見て・・・・・・・。

誘うように唇が開いている・・・・・そう、思うのは俺のエゴ。

唇に感じる息遣い・・・・・・・・・・。

鼓動・・・・・・・。




「・・・変な気を起こすなよ?」




瞬間、

頭に当たる、金属。

カチャリと音がして、安全装置が外される。

ノエルが俺の後で拳銃を構えていた。

「・・・・・」

止まる体。

ブラッドは其れすら反応しない。

「ヨハネス、二度目は無いからな・・・」

其れだけ言い、外される。

さっきの台詞は自分自身にも言った言葉なのか・・・ノエルは唇を噛み締め、白くなるほど空を握り閉めている。

スープは冷めきり、スプーンが刺さったまま固まっていた。







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