【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 16 □■




事故は偶然起こった。

その日は山間部での調査だった。

幾つかの植物サンプルと地質調査、アーサーを中心に構成された4人。

「ヨハネス、手が離せないから、ちょっとシャーレを取ってきてくれないかな?」

船外操作用ロボットに乗ったままアーサーが話しかける、足元で何かを手にしているようだ。

「ああ」

俺は、何も考えず少し離れたケースの処へ行く。

膝を付き、ケースの中からシャーレを取り出した。

瞬間

何かが落ちて来た音、そして・・・・

ぶつかった音

咄嗟に振り向く

そこには

船外操作用ロボットが宙を飛んでいた・・・

「アーサー!」

飛んだ先には奈落の様な谷が口を開けて待っていた・・・

ゆっくりと飲み込まれていく船外操作用ロボット。

切り立った其れは底が見えないほど深かった。

走り寄る3人。

「アーサー!!」

返事は返ってこない。叫び声だけがエコーする。

再度、何かが落ちてくる。

「伏せろ!」

ノエルの声が響く。俺達は咄嗟に身を屈め伏せた。

大きな岩が所々に落ちてくる。

腕に衝撃が走る。

俺は顔を顰め、其れが収まるのを待つ。

15秒くらい経っただろうか、漸く崩落が止む。

起き上がると、皆血だらけだった・・・

其の現実に、呆然とする中。

「おい、ここはやばい。船に戻るぞ、」

頭から血を流したノエルが舌打ちをし、立ち上がる。

「・・・アーサーさんは?!落ちてしまったんですよ?」

ライアンは頭を抑え、叫ぶ。

「ああ?あの高さじゃ、助からねえだろ。それに、又崩落が起こる可能性がある。

死にたければ其処に居ろ」

ノエルは冷徹な目でライアンを見る。

俺は無言で身を起こし、奴の腕を取る。

「・・・ノエルの言うとおりだ、今はアーサーの安全よりも自分を優先させろ」

あの高さで助かるのは難しい・・・・其処の見えない谷底の闇。

「・・・・」

無言で従うライアン。




気がかりなのは、アーサーがブラッドを置いて行った事・・・・

2人の関係を知っていた俺には気が重かった。

アーサーはブラッドの特別な存在になっている。

最初はアーサーの強引な関係だったが・・・

3人が船に戻れたのは、其れから3時間後だった。

船に戻ると、重い事実を伝えにブラッドの居る部屋に向かう。

皆、葬式の様に悲痛な顔だ。

ドアを開けると、ブラッドは大事そうにアーサーの子を抱いていた。

しかし、異変に気づいた彼は、俺に駆け寄る。

赤ん坊の泣きじゃくる声が響く。

「どうした!?」

叫び声の様な声。

目を合わせられない・・・床を見ながら重い口を開く。

「すまん・・・・探索中に崩落が・・・・あって」

アーサーを探しているのだろう、目線が泳ぐ。

存在が無い、顔は青ざめ、唇が戦慄く。

「アーサーは?・・・なぁ??」

俺は辛そうに目をゆがめ、噛んだ唇から声を吐く。

「・・・・・崩落に巻き込まれて・・・谷底に・・・」

彼は、目を見開き、其の儘崩れ落ちる。

咄嗟に受け止める。

視点の合わない瞳。

其処から止め処なく流れる涙。

「ぁあああああああああああ!!」

顔を掻き毟り、血が流れる。

急いで、手を押さえる。

ノエルも素早く気づき、押さえた手を布で縛る。

噛み締められた唇から血が滲む。

其れでも暴れだす彼を押さえ、舌を噛まない様に口にも詰め込む。

数時間後、ベッドに貼り付けにされた彼は疲れ果てたのか

涙で顔を濡らし、死んだように寝ていた。







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