【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 14 □■




白い天井、あのベッドの景色だ。

「おめでとう、君は妊娠しているよ」

意識がもどった第一声が其れだった。

頭に少なからずダメージを覚える。

覚悟はしてたとはいえ・・・現実の其れはボディブローのように重く、後からヒシヒシと効いて来た。

「・・・・そうか・・・」

たいぶ伸びてきた髪を掻き揚げ、下を俯く。

「・・・不安かい?」

「まぁな、俺は男で生まれてきた。其れは対岸の事だったからな、それに異性とそうなる機会もなかったし」

少年時代は戦争の駒、人を殺すマシーンになるためだけに費やしてきた。しかし其れはノエルがすべてをぶち壊した。

その後は只、ロシアの、ノエルの手から逃げた人生。しがない囚人を運ぶこの職場は存外居心地の良い物だったのかもしれない。

程よく生ぬるく、感覚を鈍らせ日々を規則的に送る人生だ。

腹をさすってみるが、何かが居るようには見えない。平たい硬い腹だった。

美人でもなく、悪くもない顔、

体だって筋張っていてやわらかさもない。

女の様だったら諦めが付いたのだろうか?

「君が今どう思ってるか解らないけど、僕を恨んでくれていい。けど、僕には君が必要なんだ」

包むように腕を伸ばされ、頭と頭をぶつける。

「運命なんてモノは信じない方だったけど、君に遭えたのは其れだと思う」

目を閉じる、何万の人の命を刈り取って生きた人生。一つの命を産む人生、・・・・・俺にも出来るだろうか?

「・・・アーサー、愛してる」

「僕もだよ、ブラッド」

腕に力が込められる。その気持ちを入れるように。

エリー、君は幸せなのかい?

遠いところにいる彼女を思う。これは彼女のモノだけど。




「・・・そうか」

男は只、其れだけを言った。

「やっぱり、姉と幼馴染とは衝撃的だったかい?」

「いや、前から御前の気持ちは解ってた事だしな・・・今更だ」

男は顔の表情を変えず静かに話す。

「それに、姉じゃないだろ」

「まぁね。僕はもしかしたらエリーじゃなく彼に・・・・」

「・・・・」

「意外そうな顔だねぇ、悪いかい?僕だって人間だよ?」

「じゃあ、大事にすることだな」

もし、約束を違えば俺は行動するのみ。

「言われなくても。義弟君、僕は一生彼を離さない」

笑っているが笑っていない彼の独特の表情。本気の表情。

何時からこの、狂宴に足を踏み入れたのか。

御前はもう部外者では無いんだ。そう揶揄してるのだろう。

男の中にある獣、其れが有る限り。




・・・最近、アーサーはとても過保護になった気がする。

本音を言えば、部屋から出したくないそうだ。

余りのことで苦笑いしか出ないが、奴は本音しか言わないのは解ってる。

最近運動も兼ねて、艦内を歩いている。もちろん、壊れた箇所の点検もあるが。

切れた蛍光灯を見つけ、換えかどうするか思案しているとノエルが背後にいた。

「よう」

タバコを口に銜えて口の端を上げる。

「ノエル」

「明かりが切れてるのか?辞めとけ」

「・・・未だ何も言ってないが・・・」

「換えるか迷ってただろ?」

癪ではあるが、ずばりそうだ。悔しい、会話を変えよう。

「ライアン・・・・・あの後どうだ?」

ズバリ言い当てたとニヤリと笑う、

「あー、生きてるな。御前が倒れたとき一発入れたがな」

嗚呼、頭が痛い。

「世間知らずのお坊ちゃまにはホトホトあきれる。あいつが要らぬ世話を焼かせるから御前がぶっ倒れたんじゃねぇか」

「あいつは未だ、御前との仲を知らないからな、だが、俺はそんなに柔にできちゃいない」

「今はそういうシガラミが無い状態だからな、本音が言える、そう思うとこの状況も良いかも知れないな」

政治、戦争、権力・・・・・。そうかもな・・・・俺もこの状況じゃなかったら一生逃げ回っただろうし。

生きるのに不自由しないがガンジガラメの地球より、生きる事が出来るかわからない星で自由になれるってのは、

何て皮肉だろう。

此処ではもう何も無いんだ。異母とはいえ唯一の兄弟。ちゃんと話したい。

唇を舐め、俺は意を決して言う。

「俺・・・・、妊娠した」

「・・・」

「・・・アーサーの子だ」

「まぁ、俺は御前が笑って生きてくれるのを願うだけさ」

ふと、悲しげな目になる。其れは一瞬。次には何時ものニヒルな笑いが来る、その後。

感情をオフにした表情が出てくる。口は笑ってるが、静かな表情。

「何かあったら、消すだけだ」

何がとは言わない、是が奴。






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