【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 11 □■




「なぁ、ノエル・・・・お前は俺を笑うか?」

俺はベッドに拘束されたままだ。かつての戦友、異母とはいえ兄弟の・・・・その変わり果てた姿に・・・

「何を言いたいか解らないが・・・最悪ではないと思う」

それに・・・奴は俺の髪をすきながら言葉を続ける。

「黒い髪も意外と似合う・・・・・・・」

一度裏切られても、奴を恨めないでいる・・・・

「色んなことが起きすぎて、少し疲れた・・・・・・・」

蛍光灯の光を遮る様に腕を目に当てる・・・・。

「まぁ、今は眠っておけ・・・・、結局は成るようにしか成らん・・・・・」

奴は明かりを消し、部屋を出て行ったのだった。

俺は何時の間にか寝ていたらしく、気が付くと博士がベットの脇にあるデスクで何やら書類を眺めていた。

「おや・・・起こしてしまったかい?」

目が疲れたのか奴は目頭を押さえ、書類を片付け始める・・・・・・・

俺は奴をじっと見つめる、少々やつれて疲れが出ているようだ。

それは、スタンドライトのせいだったかもしれないが・・・・・・・・

「心配しなくても、君の経過は良好だよ・・・・」

何を勘違いしたのか・・・・・出てきたのはその言葉だった。

「あぁ、・・・・最悪だったらよかったのにな・・・・ところでお前疲れてんだろ・・・寝てろ」

「あんなことをした僕に言ってくれるのかい?その言葉を」

「・・・・・・ちゃんと物事の分別はわかってるみたいだな安心したよ」

奴は眼鏡を外しデスクに置く。

「まぁ、妻も誘ってくれてるようだし僕も寝ますかねぇ・・・」

奴は少し悲しげに笑い、俺のベッドに潜り込む。

「・・・・おい」

奴は俺の髪を撫でながら目を細めて何か見えないものを見ているようだった・・・・

「エリーって・・・・・・お前さっき言ってたけど・・・」

今俺の中にある、奴にとってはとても大事な人のようだ・・・

奴は目を瞑り、俺を抱き寄せ顔を首筋にうずめる。

デスクの明かりが天井に反射していた・・・・・・・・・静寂は急に終わる。

「とても長い・・・・・長い話なんだ」

その一言で始まった・・・・・・

「笑って顔がとっても素敵な人でね・・・・・・・・・これでも僕は、小さい頃はとても貧弱で良く臥せっていたんだよ・・・・

学校でも苛められっ子でね・・・・・可笑しいかも知れないが彼女は僕にとって正義のヒーロだったんだよ。

そばかすもあったし鼻も低く決して美しくは無かったけど、・・・・・・彼女はとても美しかったんだ。

彼女にとって僕はなまっちろい幼馴染で、守るべき対象でしかなかったみたいだけど・・・・」

悲しげに奴は笑う・・・・・・・・・抱きしめる力が幾らか強くなった気がした。

俺は気づかないふりをしてされるがままにしていた。

「3歳の誕生日・・・・・家庭教師の一人がね・・持って来たプレゼント・・・・・・・とても綺麗な人形・・・・・

サファイヤーブルーの目に金の髪でね・・・・・僕は彼女にあげたんだ・・・・・喜んでくれると思って・・・・・・・・・

彼女は、凄く喜んで・・・・・頬にキスしてくれて・・・・・・・・・迎えの車に乗ったんだ・・・・・・・・・

見送った車が敷地の門まで行った所で・・・大きな揺れと音がしたら・・・・・・・車が無くなってたんだ・・・・・・・

代わりに、叫び声と車だったものの成れの果てと・・・・・・・・・・・・・・・・・・血の海」

俺は、居た堪れなくなった・・・・・・・・・・・・・

何も言わず奴のライトブラウンの髪をゆっくり・・・・少しでも心が痛まないように撫で続ける・・・・・・・

「彼女の父親がクラースナヤ計画の発案、実行者だよ・・・・・・・・・・・・・・・君の遺伝子のベースはエリーなんだよ

僕の父親が助手だったから・・・・・・・・・良く知ってる」

ふと、気づく・・・・俺と奴は3歳しか違わないはず・・・・・・・・・・・・クローンは一から赤ん坊を作り直すわけだから・・・

奴はその疑問に気づいたらしく、笑う。

「この計画は50年前から発動してたんだよ・・・・・エリーのクローンは彼女の5歳の頃から・・・そして死んだのが25歳のとき」

何だか気持ちが悪い・・・・・・・・・現実が余りにも・・・・重すぎて・・・・・・・・

実の子をクローン兵器にした奴の気が知れなかった・・・・・・・・・・・戦争のせい?

「けど、その計画が漸く実戦で投入されるってときに・・・・・・・反政府組織EELAのカザエフに情報を捕まれてね・・・・・・

基地を襲撃されたんだ・・・・・・・・・・・・そして奴は一体のクローンを手に入れる、其れが君の母親だよ」

「俺は俺だ・・・・・・・それ以外の何者でもない・・・・・・」

息苦しい・・・丘に上がった魚になった気分・・・・・・・・

奴は俺の手を掴み合わせる・・・・・・・・・・・・・・・指を絡ませる・・・・・・・

「そして、数年前にその基地は水爆を投下されてね・・・・・・・エリーの血を持つ者は君以外には居なくなってしまったんだよ。」

バルカン半島の水爆投下・・・・・・・・・・・パズルのピースがはまった気がした・・・・・・

「彼女の父親も愛する者を失うのが一番怖かったんだろうね・・・・・・・僕も理解できる辛さだよ」

そして奴は俺の手に口付けをした。

それは、始まりの合図だったんだと思う・・・・・・・・・・

俺の体の上を手が滑る・・・・・・・あれから一ヶ月、いい加減慣れてもいいんだがこの感覚だけは慣れない・・・・・・・・

男で生きてきた俺を女が侵食する・・・・そんな感覚・・・・・・・・・

口付けは角度を変え深くなる・・・・・心の中を探るように・・・・・・・

純粋に愛するが故に犯した罪・・・・・・・・・どっか遠いところに居る神様は許してくれるんだろうか?

俺は目を瞑る。・・・消化しきるのには時間がかかるかもしれないが、許せ無いことでは無いんじゃないか?

俺だけでもこいつを許してやろう・・・・・・・・・・

後ろを見てたら進めなくなる・・・・・・・・・・・・・・・・・前を見据えて進んでいこう・・・其れが答え・・・・・・・

一ヶ月間やってた中おれは始めて奴に応える・・・・・・・・・・・・

舌をぎこちなくでは有るが絡ませる。

奴は、驚いたのか目を開く、俺は構わずそのまま口付けに応え、奴の肩に手を置き角度を変え深く浅く・・・・口付けを返した。

「お前の傷の痛みは解らないが、俺が居て其れが癒えるっていうならお前の傍に居よう。だから俺の前では自然に笑ってくれ・・・」

奴の頬に手を沿え、軽く口付ける・・・・・・奴は涙を流して笑った。






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