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■□ 獣伍親爺漂流記 10 □■ 気がつくと息が触れ合う程近くにノエルの顔があった。 あれから随分と経った、奴の顔からは当時有った若さは消え、代わりに男らしい骨ばった顔になっていた。 「あの動きに反応できる奴なんてそういないからな・・・」 奴は俺の顎に手を当て顔を覗き込む。 薄いとはいえ男でも有る俺はあの後放置されていて顎からひげが生えていた。 「まぁ、結果としてはお前を捕まえられたわけだが・・・・・・・ところで・・」 ノエルは後ろから来た男に反応し、銃を構える。 「君、僕のエリーに手を出さないでもらえないかな?」 ニコニコと恐ろしい笑みを浮かべ何も持たずに立っていた。 ノエル相手に素手で勝てる奴はそうそう居ない。しかしベック博士は頭が良かった。 意識が背後に向かった瞬間、護衛のシュレイヤーがノエルに拳銃を向ける。 「ところで・・・ブラッドお前なんでそんなところに繋がれてるんだ?」 ベック博士は、ふと気づいたように片眉をあげた。 「おやー、君は・・・・僕からエリーを奪った人に似ているね・・・・確かガザエフとかいったかな・・・」 するとベック博士はおもむろに手を上げ次の瞬間 ノエルの居た場所が大きく凹み黒こげになった。 「あ、君反応はやいね。此処の研究室の監視カメラにはレーザが仕込んで有って僕の脳と連動してるのさ」 何時の間にか、船はいけない方向に改造されていたらしい・・・・・・ 一発目のレーザを避けたノエルだったがシュレイヤーの銃で取り押さえられる。 ノエルはその状況を気にする様子も無く、俺に向かって先と同じ口調で言った。 「ブラッドお前なんでそんなところで繋がれてるんだ?」 その様子を見て博士は俺とノエルが知り合いという事に気づいた様だ・・・・ 博士はノエルに上辺だけの笑みを浮かべたまま、ゆっくりとした口調で話した。 「君とブラッド君は知り合いのようだけど・・・・もしそうなら僕を殺すと彼も自動的に死ぬからね」 彼は顎に綺麗な指を当てニコニコとしながら恐ろしいことをいったのだった。 何時の間にそんなことをしたのか・・・俺は奴の前では生死すら自分で決められないらしい。 「まぁ、いいやノエル君。これから僕らと取引しないかい?ブラッド君とエリーの事でなんだけど・・・」 奴は、挨拶をしたかの様な軽い口調でその話を終わらせ、まるで楽しい遊びを提案する子供のように話し出す。 ノエルは眼を見開き、何か考えているのだろうか間をおいて口を開いた。 「用件にもよるが、聞くだけなら聞いても良い」 その反応に博士は満足したらしく笑みを深くした。そして確認する。 「君は恐らくガザエフが何をしたかも知ってるはずだよね?」 何か・・・・・・何かとは・・・・俺にはそれがとても重要なことの気がした。 「ガザエフは俺の父親だ・・・・・・・・・・」 苦々しげに、そして吐き捨てるようにノエルは言った。 何故?俺たちの実の父親だ。記憶にあるのは厳しかったがでも誇りのある戦士。 理想の父親ではないにしろ、俺はあんな男になりたかった・・・・・・・・ 「へぇ、君はでも違うよね?」 何か遠い所で重要なことを本人抜きで話している感じがする・・・・・・・・・・ オブラートにつつまれた会話、なにか抜けている言葉。 「異母兄弟だからな」 ノエルには解っていても俺にはわからない何か・・・・・・・ その会話は俺に軽い眩暈と吐き気を覚えさせた・・・・・・・・ 「嗚呼、ナルホドね・・・。顔立ちはお父さんそっくりだねぇ」 と何時もはニコニコしている彼の眼に暗いものがふとよぎった気がした。 何か二人の間に大きな隔たりがある・・・・・そんな気がした。 束の間の静寂のあと、博士はフッと笑みを一瞬深くし空気を変える。 「今、僕たちはアダムとイブの様な状況・・・・・・・にあるんだよね・・・、 ワープホールが壊れてたみたいでさ、未開の星に不時着って訳さ。 その上、着陸の衝撃で培養する器にヒビがはいっててさ・・・まいったよ。」 彼は大げさに手を広げ方をすくめる。 デスクに腰をかけた博士は指をマジシャンの様に鳴らした。 「で、エリーを生かすために彼の体に移植したわけ」 彼に、道徳と倫理なんてものは持ち合わせていないようだ。 「まぁ、僕がエリーっていってるのは女性の子宮なんだけどねぇ」 自虐的に笑う。だけれども奴の目は悲しげだった・・・・ あの眼はピエロじみた奴の本心な気がした。しかしそれは一瞬で次には 何時ものあの張り付いた笑みが有った。 「単刀直入に言うと、ブラッド君を共有しないか?・・・ってお誘いなんだ。 恐らく君には悪い条件ではないと思うんだが・・・・・・・」 その先には肯定しか答えは出ないように仕組まれていたが・・・・ 一応選択の余地があるらしい。 「・・・・・・・・ところでお前を殺すとブラッドは死ぬんだったな」 ノエルはコードネームのアイスマン、その名の通りのツンドラも真っ青な冷たい眼差しを 博士に向ける。 「まぁね、僕の心停止と同時に彼に埋め込まれているチップが爆発する仕掛けさ」 笑顔を張り付かせながら言う言葉は脅迫のようだ。 俺はふとため息の音を聞いた気がした・・・・・・・・・ ノエルはゆっくりと銃を下ろし、床に放る。 「どうやら、了承してもらえたみたいだね」 博士はニコリとわらった。 「嗚呼、けどその前に・・・・・・」 ノエルは冷たい笑みを口の端に浮かべる。 次の瞬間、ガツンッ!という鈍い音と共に博士の体が壁に当たった。 「一発殴らせろ」 とノエルは行動の後に言ったのだった。 戻 TOP 次 |