【小説】

■□ 獣伍親爺漂流記 1 □■




世の中、真面目に生きている奴は馬鹿を見るんだと思う。

10年程前の大戦での時、人を二人助けたんだ。

一人は貴族のボンボン、一人は凶悪犯罪者・・・・・・

戦争の時なんてソイツの出身や身分なんて関係ない、

目の前で死なれるくらいなら助けた方がマシ。

っておもってやったこと。




その後、ボンボンを助けた手柄は、当時隊長だった奴がトンビに油揚げの如く取られ、

凶悪犯罪者を助けた事は、何故助けたのかと罵られた。

信じていた母国は消え果て、同士の屍の上を歩いた。

睨みすえていた敵はさらに肥大し・・・・無力感だけが支配する。




時は流れて・・・・・・・・・

10年経った今、遠い噂でその隊長は何処かの国の高官になったと聞いた。

俺は連合国の警察官になっていた。

警察官といっても下っ端の下っ端で、

仕事といえば犯罪者の護送をするという雑用的な仕事ではあったが、俺は俺で遣り甲斐のある仕事だとおもっていた。




夢・・・・其れは贖罪の時間。

気づくと独り荒野に立つ。

真紅で全身を覆っていた時代。

ついさっきまで、笑い、泣き、話していた同士。

ついさっきまで、憎み、罵倒し、戦っていた敵。

今は屍となったモノ。

それらは無機質に重なり、血を流していた。

血は泉のように俺の足元を濡らす。

怨みを込めた目は此方を向き睨らんでいるようだった。

音にならない謝罪の言葉を口にする。

次の瞬間、確かな足元が何か強い力で引きずり込まれて行く。

一瞬で大地が沼に変貌したかの様に・・・。

足元に目をやると其処には何千、何万の白い手がまとわりつき、

俺を引き、沈めようとする。

ジワジワと沈んでいく恐怖・・・・。

膝・・・腿・・・腰・・・腹・・・胸・・・肩・・・首・・・

そしてとうとう顔だけを何とか出すのみとなる・・・

必死でもがき逃れようとすればするほど墜ちて行く・・・。

屍の山の上では、氷の色を持った男が俺を嗤う。

「***!」

声にならない声で叫ぶ・・・・かつての同胞の名前を。

男は其れを見てるだけだった・・・・嗤いながら。

驚愕に目を見開き叫ぶ俺。

次の瞬間・・・・・・・深淵が視界を支配する。

息がすえない・・・・・・・・

もがき、足掻く・・・・・・・




「っは!!!」

手を振り飛び起きる・・・・・・・

「・・・・・・・夢か・・・」

そう何時もの・・・・・・・・・

俺はうずくまり・・・身を丸め、汗で濡れた髪を掻き揚げる・・・。

苦しさに歪める目・・・噛み締める唇・・・・。

「・・・・偽善者か・・・・・」

嘲笑気味に言う・・・・其れ・・・・・。

ふと、時計に目が行く・・・・

安物と一見して解る、銀色の丸い其れが指す短針は『5』の文字。

輪舞曲の様に繰り返される其れは終わりの無い物だった。

外ではスラム街のゴミを漁るカラス達の鳴き声が響く。

気だるげに安物のベッドを抜け出て、洗面所に向かう。

其処に映るのは薄い髭を生やした、黒髪、黒目の貧相な男。

こけた頬に、目の下には年の瀬を感じさせる。

目を閉じれば若き日の己が居る。

鷹のような強く輝き鋭かった瞳、引き締められていた唇、髪には艶。

それが今では・・・・

木の虚のような落ち窪んだ瞳、弛み力の抜けた唇、髪はボサボサで艶なんてものは無くなっていた。

・・・・お前は幸せかい?

鏡の中の己に言ってみる・・・・

何も帰ってくるはずの無い答え。

俺は目を覚ますため、冷水で顔を洗う。

薄い髭を剃り、歯を磨く。

寝汗で汚れた体をシャワーで洗う。

雨の様に全身を打つそれに目を瞑り身に受ける・・・・。

思うのは若き日に身を置いた戦場・・・其の時の雨。

筋張り、しぼんだ体に生気は無い。

頭を垂れ、その儘壁に寄りかかる。

眼窩を通る水はシャワーなのか・・・涙なのか・・・

其れすら解らなくなった。

何時も通り・・・

俺はシャワーを終えると、朝食を用意する。

何時もの動作・・・・

代わり映えのしないニュースキャスターが箱の中で生真面目にこの世の出来事を伝えていく。

それをただ流しながら、俺は味のしない朝食を胃に詰め込む。

仕事着に着替え、家の鍵を閉める。

スラム街の一角にあるぼろアパートの最上階、一番奥の部屋。

其れが今の俺の家だった。

俺は盗む気も失せる様なオンボロの車に乗り込みキーをかける。

何回目かでかかるエンジン・・・

カーラジオが流れ出す。

それは此処に来たときから変わらないチャンネル。

俺は其れを聞き流しながら・・・流れる景色を眺めながら仕事場を目指す。

赤い土、緑のサボテン・・・・岩・・・・

代わり映えのしない荒野を眺めながら・・・。




今日も何時もどうり出勤した俺は着替えるため、ロッカールームに行った。

くすんだ蛍光灯の廊下を抜け灰色の何時もの鉄の扉を開ける。

「よお、ブラッド。」

入れ違いで上司のジョージに声をかけられる。中年のビール腹は朝から汗をかいていた。

人の良い笑みを浮かべ赤く染まった頬、後退し切った頭をハンカチで拭い、白金の口髭がモゴモゴと動いていた。

首は弛んだ顎に付く肉で無くなっていた、其れをYシャツの襟で強引に区切っている。

白金の口髭と首の弛んだ肉を見つめていると、其処から声が発せられる。

「今日の護送は、新人のライアン・ベニトンと一緒だ。もう行き先が決まってる。問題の無いよう穏便に対応してくれ。」

俺は無気力のまま其れを見ていた。

彼の台詞を聞いて頭の隅で単語が浮かび上がる。

「・・・・キャリアですか?」

その反応に困ったように肩を窄め、苦笑いをする相手。

「まぁな・・・」

彼は押し黙る俺の肩を軽く叩く・・・・反論は許されないのだろう。

よろしく頼む・・・そういう事。




まぁ、俺には逆立ちしても縁のない人種だな。着替え終わった俺はロッカーを勢い良くしめた。

そいつにとっちゃ此処は穏便に何事も無く次に昇進するまでのつなぎぎでしかない。

ここでは犯罪者をエンタレスという星へ護送して、刑期をまっとうするまでレアメタルの発掘をさせる。

その地球からエンタレスまで犯罪者を護送するのが俺の仕事だった。




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