【小説】

■□ 人生と言う名の媚薬 5 □■




次の日、俺は体が本調子ではないので、寝ていた・・・・・・・
昨日を眠って過ごしたせいで眠気が全く起きなかった、只天井の模様をじっと見たり、

目を瞑り今までやった勉学、武術を反芻して忘れようとしたが、やはり直ぐに

この前の起こったことを思い出してしまう。・・・・”対の者”という言葉も気になっていた。

藤丸にお願いをして、教本をとってきてもらって。一人其の本に目を通し日が過ぎたのだった。

何かの拍子で寝返りを打ったのだが、その拍子で深夜、何故か目を覚ましてしまった。

何度か眠ろうと試みて寝返りを打ったとき。外の景色が見える。とても綺麗な満月。

俺はふと、月に誘われるように、庭に出てみる・・・・・・

美しい月は広い湖面にも同じように映されている。

ここの庭はとても大きく広かった。

対で全く同じ建物が有り、其れはとても小さく見える。

此方側は天の寝殿、対岸は月の寝殿というらしい。

この庭を見るだけで一日を費やしてしまうだろう。

池に写る建物と月を眺める。

俺は、ふと、流れてくる真紅の花びらに気が付いた。

其れはとても大きく、ゆらゆらと揺らめいて池に模様を描き、目を引くものだった。

きっと、是だけ大きな花びらなんだ元はとても大きいに違いない。

何故か其のとき、この花びらの元の姿が気になり、気が付くと、池の上流を探して庭の奥へと進んでいた。

暫く歩いただろうか、後を振り向くと闇が広がっていた。

恐らく、俺は迷子と言うものになったのかもしれない、何処をどうやって来たのか解らなくなってしまっていた。

少し不安になりかけた頃、大きな真紅の花が目に飛び込んでくる。どうやら花びらの元は是の様だ。

月明かりに浮かび上がるように一輪だけ咲く真紅の大輪の花・・・・・・・・。

俺は誘われるように、幻のようなそれに触れようとした、そのときだった。

『此処は吾の領域なはずだが・・・・御前どうやって入ってきた?』

子供にしては幾分低めの太い声。俺は顔を上げる。

なめしたような赤銅の肌、白に近いザンバラな銀髪、射るような鋭い金の瞳を持った童が、

岩の上で悠然と座っていたのだ。

『いや・・・花びらが流れて来て、其の花がどんなものなのかと池を辿ってきたら此処に・・・。』

『ほぅ・・・・・・そうかそうか・・・花に誘われし蝶という訳か』

ニヤリと奴は俺を見る。

『蝶よ、気の済むまで居るがいい・・・・・吾も歓迎するぞ』

その童はゆったりとした動作で胡坐をかく。

暫く花をジッと眺めている。息をするのも忘れる位、綺麗だ。

溜息が零れる。

「本当に・・・・・・とっても綺麗な花だね」

すると彼は頬杖を着き、満足げに目を細めた。

『お目が高い、是はそんじょそこらの花ではない特別な物。』

俺の言葉に気を良くしたのか、膝をポンと叩き、言った。

『そうだ、奥に沢山花の咲いた箇所がある・・・・・・案内してやろう、此処ほどではないが・・・・美しいぞ』

彼は、とても身軽に、跳び一足で俺の前に来た、びっくりしたが、いたずらっ子のようにニヤリと笑うと、

少し強引に手を取り、引いて行く・・・。

転ばないように、足元を気をつけるのがやっと、何処をどう通ったのか・・・・木々を掻き分け、

とても早い速度で進んでいく。

一際大きな枝を抜けた所は、・・・・・・美しい光景が広がっていた。

極彩色の花々、群がるように跳びまわる数々の蝶達。

一本一本は小さく先ほどの花には比べ物にはならないが、確かにとても綺麗な風景だった。

ヒラヒラと目の前を蝶が飛ぶ。

「・・・凄いな。」

奴は花を一輪取ると俺の頭に挿す。

「・・・あの、有難うな、こんなに綺麗なところ・・・案内してくれて。」

漸く、お礼を言うのを忘れていた事に気づく。

恐らくそいつのお気に入りなのだろう、あんなに入り組んだ道を来たのだから・・・。

奴は、少し驚いた様で、目を幾分大きくして此方を見た、多分感謝の言葉を掛けられるとは、思わなかったのだろう。

意味を理解し、嬉しげに笑う。

『御前の気も、とても美しいな・・・・・』

奴は俺を見て、目を細める・・・・・。

何故か急に目蓋が重くなり、微睡みが支配する。

『又来い、是を渡そう、そうすれば又来れる。』

奴は赤い陶器でできた鈴を一つ渡す。

手にそれを握った感覚が伝わったが、眠気はどんどん広がっていく。

記憶はそこで途切れた。

目を覚ましてみると其処は、自室の布団の中だった。

夢でも見たのか?俺はぼぅとしてると、藤丸に萩丸が朝餉を膳に持って部屋に入って来る。

『おはよう御座います、良い天気ですね。お加減はいかがですか?』

にこにこと綿帽子のように笑う彼らを見ると、早く元気にならなくてはと思う。

『良かった、熱の方は下がっているようですね』

熱を素早く測り、膳を置かれる。

「ありがとう」

俺は、体の調子を見るように、身を起こし朝餉を食べようとする・・・・。

コトリと手に違和感を感じ、何の気無しに見る。

其処には、夢だとおもっていた鈴が手のひらにあった。




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