|
■□ 人生と言う名の媚薬 16 □■ ふと目が覚める。何時もの自分の部屋だった。 外は日が顔を出していた。 何時もの池がキラキラと瞬いている。 可笑しい、俺は荒の君の剣で貫かれ絶命したはず・・・・。 俺はその生々しい感覚を思い出し、確かめるように傷の在った辺りを撫でる。 其処には只、青白い肌があるだけ・・・・・・・。 傷一つ付いていなかった。 気付くと、其処には藤と萩丸が居た。 「・・・俺は何故此処にいるんだ?根の国の門に居たはずだが・・・・」 『荒の君が、気絶なされた貴方様を抱いて見えられまして・・・・』 南斗は・・・?ふと其れが頭を過ぎる。 『・・・・ヤラレタ・・・・・・・』 ふと、頭で声が響く。 其の声は・・・・! 「南斗?何処?」 『荒ノ君ニ前ノ俺達ニ戻サレタ・・・・』 ・・・・と言う事は。二人が一人に戻った・・・・最初の状態に・・・・・。 「良かった・・・・南斗が死ななくて・・・」 『北斗ノ命ガ助カッテ安心シタゾ』 ほっと、息を吐く。 『・・・天の君何方とお話で?』 怪訝そうに、藤丸が伺う。 「あ、いや・・・・」 俺は、事実を話そうとした・・・・其の時。 『話サ無イ方ガ良イ・・・・』 その言葉が俺の口の言葉を絡め取る。 幾許かの間の後・・・。 罰の悪そうに俺は言う。 「・・・・何でもないよ」 と。 其の反応に、藤丸は心底心配したように声をだす。 『南斗様が消えられたのにも関わらず、勾玉はどの月の者にも降りていない様子 ・・・未だ何処ぞで生きていられるのでしょうか・・・?』 「あ・・・・ああ・・・」 事実をどう隠そう・・・・そう考えあぐねていた時だった。 『天の君、嘘は吐くでないぞ・・・・御前達・・・戻ったな・・・・』 と声、振り向いて見ると、其処には月の君が居た。 『月の君!貴方の宮の責任をどの様に取られる御積りか?』 萩丸が顔を変えて叫ぶ。 『其方は前代天の君を此方は当代と次代月の宮を無くした・・・痛み訳ではござらぬか?』 唇を上げて哂う。少しやつれた彼は痛々しかった。 そうか・・・・月の宮・・・。 南斗に斬られていた・・・・助からなかったか。 然し、次代のあの可愛い子まで・・・・。 悲しみで唇を鋭く噛む。 『ええぃ!そもそも事の大事さが違うわ!』 藤丸が叫ぶ。 月の君は其れを鬱陶しげに眺めると、気だるげに言う。 『そんなことより・・・・・・。二人が勾玉と鏡を持ったまま一人に戻った・・・・・その意味解らぬか?』 月の君は怖い顔で笑う。 『・・・・』 『・・・・』 何やら萩と藤丸は黙ってしまった。 そんなに重要な事なのだろうか・・・・? 不安が胸の中に広がる。 『・・・・』 南斗は何か知っているようだが・・・・・無言だった。 月の君は怖い顔を其の儘に俺に話しかける。 『ああ、天の君は知らぬよう様だな・・・・』 ニヤリと笑う。 揶揄した様に・・・。 『月の君!其れは我々一族の存続に関わる事!』 『お止めくだされ!』 萩と藤丸が叫ぶように制止の言葉を放つ。 其れを楽しむように発せられる声。 『教えて進ぜよう、其れは、太古より恐れられた禁忌』 黒い炎に燃える、彼の心が見える 『何故、天照大御神、月読尊、佐之男命の代より我々一族が別れたか・・・、 彼の神々は元来同じ親より生まれし兄弟。 其れは、三種の神器を分けて置く為だ。二つ持てば・・・・・・・・』 間が開く、其れは重要な事なのだと知らせるために。 歪められた口元が、言葉を放つ。 『不老不死に・・・・・・』 其の言葉に俺の頭は真っ白になる。 ふろうふし・・・・? 其の、現実味の無い言葉を理解するのには少し時間が掛かった。 其れでも、月の君から言葉は紡がれる。 『そうなれば一代のみが永遠に一族の頭首となる・・・・・・・ この世の理から外れてしまう事・・・・・・』 母さんは何故、俺達を・・・・? 其処までして、運命の連鎖を食い破りたかったのか・・・・。 呆然とした俺を鼻で笑い、言い捨てるように月の君は言う。 『三日後、御前達の処遇を一族の守護たる三神に委ねる・・・・』 其れだけ言い残し、姿を消してしまう。 俺は不安になり、自身の腕を抱く。 すると、声が頭の中でした、優しくゆっくりと。 『心配スルナ・・・御前ハ俺ガ守ル・・・・』・・・と 三日後、俺達は湖面の中央にある神楽台の様な処に立たされた。 祝詞が響く。 其処は月の君と俺、そして荒の君が居た。 其れが終わった瞬間。 出でたるは光、闇、炎の三つ。 三神、天照大御神、月読尊、佐之男命である。 『今宵、御方々を御呼びしたのは、 神器の内三つの内二つが一つ処に集まったが故・・・ 一族から不老不死が出てしまった事について、 其の者の処遇をどの様にすれば良いか伺いたく』 威厳を込め月の君が凛と声を張る。 光が発する 『実に恐ろしきは、母の愛よのう・・・、かのように成らんが為・・・天の宮は其の者にしたのじゃが・・・』 闇が発する 『本に・・・。月の母とて同じ、愛する我が子の為に犯した罪とは言え・・・。其れの所為で、今の体たらく・・・・』 光は発する 『其の上、荒の君・・・・御前も力を貸した・・・・・・・目も当てれん』 炎は発する 『吾は約束を守ったまで・・・・それなりの代償は貰ってる』 闇は発する 『其れで・・・・不老不死を出してしまった事・・・どの様に致す?』 光は発する 『難しいことでは在るまい、切り離してしまえば良い』 闇は発する 『然し、其の者は不老不死・・・・切とて又元に戻る・・・・取り出せぬぞ』 光は悔しげに発する 『成らば、炎で焼いてしまえ、弟よ・・・御前なら出来よう・・・・』 炎は愉快げに言う 『姉様方、解っておられると思うが、是は吾の約束故・・・・・・吾は手は出せませぬ』 闇は発する 『では・・・・此の侭認めよと・・・?』 光が叫ぶ 『何を言っておる!添うなっては、我々と同じ力を持つ者・・・それも、我々を使役でき得る者がこの世にのさばってしまう!』 闇が溜息を漏らす 『そう、其れは理から外れてしまう・・・・・・』 炎が軽く言う 『吾に提案が在る』 光と闇が声を揃える 『ほぅ、提案とは・・・?』 炎が発する 『何、吾と其の者とで新しき約束をすれば良いだけの事・・・』 光が発する 『成るほど・・・・そうすれば古い約束は効力を失い、御前の力が使える・・・』 闇が発する 『そうだな・・・で?約束は如何する』 炎は愉快げに発する 『其れは其の者が決める事・・・・北斗・・・』 遠い話の様に聞いていた其れが急に此方を向く。 俺は、驚き真っ白になる。 「あ・・・・・」 『何か望みは無いか?』 優しい声。良く知った・・・。 咄嗟には思いつかず、考える・・・。 闇の中を思案する・・・ふと、朱色の幼い童の悲しい顔が浮かぶ。 ・・・・・そうだ是なら・・・・・・望みが浮かぶ。 是なら良いよな・・・? 中に居る南斗に声を掛ける。 『勿論ダ、俺ハ御前ニ従ウノミ・・・』と穏やかに返ってくる。 意を決し俺は口を開く。 緊張で掠れた声。 「・・・・荒の君が・・・永久の孤独から・・・孤独から解き放ってもらいたい・・・」 揺れる炎。 『・・・・・・』 只無言。 光は其の声に反応する 『何を言っておる!疎の様な事すれば、根の国の者が此方に溢れ出て来るでないか!』 闇も発する 『左様。あれは永久に続けなければ・・・・』 炎は笑う 『姉様方は何時までも頭の固い・・・。何、出来ぬ事ではない・・・体だけ其処においておけば良い事』 然し・・・、と続く。 『其れは望む物と対価が合わぬ・・・・そうだな・・・任を与えよう・・・ 是より、俺の園を美しき花で敷き詰めて貰うか・・・・・其れで我慢しよう』 光は怒ったように発する 『何を言っておる、疎の様な無理難題を言う出ないわ!』 闇も同じようだ 『左様、是では何年経つか解らんぞ・・・其れこそ永久に近い・・・』 炎が其れに笑う 『為らば諦め、この者の不老不死を認めなさるか?吾はそれ以外は耳を貸さぬぞ? 其れに・・・姉様方は其の者に使役される側・・・・・可笑しい物ですな 吾は其れを観るのも一興・・・』 光が叫ぶ 『御前は!ええい!此の侭御前を滅してくれようぞ!』 闇も叫ぶ 『左様、我々の力侮るな!御前が根の国に封じたるは我々!』 一瞬即発・・・。 俺は無意識だった。 祝詞を発する。力で押さえつける 其れは、2つ。 俺の声と南斗の声。 叫び声が木霊す。 「幾ら、天の一族の神でも・・・・荒の君には手出しはさせない・・・貴方方は我々の使役される身です」 『・・・・・月ノ神ヨ、ソウ言ウ事ダ諦メロ・・・』 炎は哂う。 『・・・という訳で、是で約束が取り交わされる・・・・』 炎から出でたるは剣。 『中津国の彷徨いたる魂・・・・其れは美しき花となる・・・・行って是で刈り取るが良い』 其れは気の遠くなるような時間が掛かると解る。 唇を噛み締め、意志の強さを示すように、腹の底から声を出す。 「解った・・・・」 『・・・・・嗚呼』 南斗も同じなのだろう、強い口調だ。 『何、是は吾の魂為れば・・・・・約束だからな。其れで違える事はなかろう・・・』 炎が揺らぐ、微笑んでいるように・・・。 魂でも在る剣を俺に渡す。 優しく揺らぐ其れは消える。 同時に光、闇も。 はるか遠くで声。 『其の者の裁決が下った!是よりこの者は根の国の園を彷徨いし魂の花で彩る任を与え。 その任を終え次第、煉獄の炎で其の身を焼くと!』 其の声に呼応し、池から出でたるは漆黒の門。 『さぁ門を抜け、中津国での任を真っ当するが良い!』 重い音が響き、門が大きく口を開ける。 眩しい光りが目を遮る。 手にした剣と双子の片割れが心を支えてくれている様だ。 俺は、前を見て、足を一歩ずつ確りと歩き出した。 『北斗・・・・愛シテル・・・』 「嗚呼、俺も・・・」 暖かい互いの心。任は厳しい物だ、熾烈を極めるだろう。 然し・・・・、彼とならば・・・・・。 遠い未来を夢見て進む。 一歩一歩・・・・・光りの中を・・・・・・・・・・。 人生と言う名の媚薬 − 了 − 戻 TOP 次 |