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■□ 人生と言う名の媚薬 11 □■ 気が付くと、其処は牢の中ではなく、今まで住んでいた部屋だった。 見慣れた其の天井、布団、そして香りに安堵する。 視線を彷徨わせると傍らに、萩と藤丸が仕えていた。 二人の腕には三つの赤子が抱かれていた。 現実味の無い真実を呆然と眺めていた。 俺に気づいた萩丸が、微笑み、礼をする。 『お世継ぎ誕生おめでとう御座います。ささ、無理をなさらず横に・・・』 身を起こされ・・・手に薬湯を持たされ、俺は口に含む。 独特の苦味と甘さが口に広がる。 ・・・暖かい。 手に持ちボンヤリと器を眺めていた。 すると、愚図り出す声で我に戻される。 萩丸は懸命にあやすが、一向に直る気配が無い。 「萩丸。貸して、俺が抱こう」 俺は其の光景を見て・・・手を差し出す。 『助かります・・・』 其の言葉に安堵したのか萩丸は微笑みそう言うと、そっと抱き移される。 信じられないほどに小さく、儚いそれ。 暖かく、独特の乳の香りがする。 暫くすると泣き止み、俺の髪が気に入ったのか、一房を掴み笑顔で笑う。 つられて、笑みが溢れる。 暫くそうしてただろうか・・・・ 遠くから足音がする・・・・それは段々と近づいてきて・・・ 人の気配を感じ・・・其れが強張る。 彼の独特の空気。顔を上げなくても解った。 『北斗の意識が戻ったと聞いたが・・・』 朧の声、俺は顔を上げれずに居た。 どの様な顔をして遭えばいいのか解らなくて・・・ 傍らに座る気配、肩に置かれる手。 『良くやった。是で一族も安泰だ』 ・・・俺ではなく・・・一族・・・其の言葉に・・・ 心の中に苦い物が広がる。薬湯の苦味が移ったようだ。 口から出たのは、置かれた手を引きちぎる言葉。 「・・・・天の君、南斗は今どうしてますか?」 一瞬手が震えたのが伝わる。 後ろに控える萩丸と藤丸も何か言いたげな視線を投げかけてくる。 『・・・ああ、元気でやってるぞ。御前の体調が良くなれば遭わせよう』 そして手が肩から離れる。ゆっくりと・・・ それはぎこちなく・・・・ぎくしゃくと・・・ 言い訳の様に・・・話を変えたいのか・・・ 朧の声は揺れていたが・・・・。 『今は、産後だ安静にすると良い』 とだけ言う。 「はい、そうさせて頂きます」 俺は冷たい声音でそう言ってしまう。 朧は立ち上がり、此方を一度も見ることなく、部屋を出て行った。 逃げるように・・・・。 腕に抱いた赤子が俺の髪を手にして笑っていた。 それに引き戻される・・・・。 『北斗さま・・・・お気持ちは解りますが・・・・』 萩丸が辛そうに言う。 『天の君とて・・・決して貴方様を嫌っているわけでは有りませぬゆえ・・・』 藤丸が同じように言う。 「嗚呼・・・解ってる・・・」 解ってる・・・・理性では・・・・・けれど・・・それで上手く心の整理が付けば良いのだが ・・・そうも行かなくて・・・ 噛み締めて目を瞑る・・・・、そして赤子に顔を埋める・・・・悲しさを紛らわすため・・・・ 三つ子の名は日向、日和、日立と名づけられた。 顔立ちは良く解らないが・・・・日向について回る日和と日立がいる・・・ 日向は藤と萩丸に言わせると俺に似ているらしい・・・・日和、日立に比べると少し小さい彼。 瞳は金で、茶金の髪が風に揺れる。 日和、日立は同じくらいの体格で・・・左右に金の瞳と青の瞳を持つ。髪は銀髪。 右が青いのが日和で、左が青いのが日立だった。 顔立ちは藤と萩丸に言わせると朧に似ているらしい・・・・ 俺に懐いているのは日向らしく、俺から少しでも離れると泣きじゃくる。 そして、其れに釣られるように後の二人が泣き出す・・・・。 俺と藤と萩丸は彼らに付きっ切りになった事は言うまでも無い。 けれどやはり己の子だけ有り、其の思いは格別だった。 ・・・・母さんもこんな気持ちだったのだろうか・・・・ そう思う。 そして彼らも俺と同じ慟哭を味わうのか・・・・ それは黒い染みとなって心に落ちていく・・・・ 俺みたいには成らないで欲しい・・・そう切に願うが・・・俺だけでは如何する事もできなくて・・・ 唯、彼らの幸せを願うだけ・・・其れしか出来ない。 一週間後、もうすっかり良くなった俺の体調に、典医の許可が下りる。 独り縁側で庭を眺める。 風は穏やかで・・・日差しは強くも無く・・・調度良かった・・・。 萩と藤丸には子のお守りを頼んでいた。 池の中で蓮の花が浮いている・・・・ 白くてとても綺麗だ。 急に、後から抱かれる。 褐色の腕。 力強い其れ。 自然と、笑みが溢れる。 安堵したように・・・ 「南斗・・・漸く遭えた」 俺より随分大きく力強い。 『北斗・・・』 腕に手を重ね、後に身を預ける。 俺の大事な、大事な半身・・・ 「よかった・・・体は大丈夫?結界を壊したから・・」 『其レハ御前モダ、体・・・大丈夫カ?』 「うん・・・・」 頬から涙が溢れる。 随分、遠いところまで来てしまった。 顔を両の手で包まれ、指で流れ落ちる涙を掬われる。 『御前ニナニガアッテモ、御前ハ俺ノ対ノ者ニ変ワラナイ』 確かな口調で耳元で囁かれる。 其の言葉は、俺の心に暖かく染み込んだ。 そして、啄ばむような口付け・・・・ 鼻を互いに摺り寄せ・・・・再び、力強く抱きしめられる。 微笑みが互いに零れ・・・・俺も彼の腕を抱く。 心の落ち着く場所だった・・・・・・。 肩に顔を擦り付け・・・・じっとする・・・・・。 彼は其れを無言で受ける。 俺よりも背も高く・・・確りと筋肉が付いた男らしい腕。 偶然だった・・・・偶々・・・そう・・偶々、池の白い花に呼ばれて。 其れを見たのは2つの眼。 絵の様に白と黒が抱き合う姿。 心に波紋が広がる・・・ 白い花を浮かべる池の様に・・・ 溜息をつき、目を閉じる。 其れに蓋をするように。 身を切る様に来た道を戻る。 戻 TOP 次 |